メリッサ・ラミレス
自分の恋情に振り回されるイタイ女子の胸の内をセキララに語っていただきます。
注)ムカムカで 胸やけがするかもしれません。
なんて素敵な人なんだろう。
入省して先輩職員として引き合わされたレグラン・グライユルを見た時、私はそう思った。
背の低い私が見上げるほどの長身、均整のとれた恵まれた体躯の上にある精悍でいて甘い顔立ち。
しかも彼は入省試験を次席でクリアした幹部候補のエリートだという。
あ、こいつはモテるな。
私は瞬時にそう判断した。
この男は自分とは違う華やかな世界に住む人間だ。
昔から地味だブスだ可愛げないと言われ、自分が男性受けしないタイプだというのは百も承知している。
だから絶対にこんなハイスペックなイケメンとは住む世界が違うと、一目惚れしかけた恋心を瞬間凍結魔法でガチガチに凍らせ、心の奥深くに封印した。
実際、グライユル先輩はよくモテた。
彼の見目の良さと将来性に目をつけた女が次から次へとアプローチやモーションをかける。
だけどグライユル先輩はその手の女性が大嫌いなようで、けんもほろろな態度で相手の女性は取り付く島もない。
魔法省の女性職員で上手く立ち回ってなんとかグライユル先輩と同僚としての立ち位置をゲットした女も居たけど、いつも一定のテンションで生真面目な性格がつまらないと、思っていたのと違うと、一方的に失望して去って行った。
勝手に擦り寄られては相手にしないうちに勝手に失望されて去られる……そんなグライユル先輩と女たちを幾度となく見てある時、私は思った。
これは……彼はホントはモテないタイプでは…?
これは……私と同じく日陰からキラキラする人間を見つめるタイプなのでは……?
だとしたら私にも希望があるのでは?
そう思った途端に、封印していた恋情が間欠泉のように噴き出した。
やっぱり彼が好きだ。
見た目も好きだし、真面目で責任感が強いところもいい。
何より口数が少なくうるさくないのがいい。
そんな彼の特別になれたら。
そして公私共に彼の一番近くに居られたら。
彼が欲しい。誰にも渡したくない。
そんな想いが自分の中でふつふつと湧き上がる。
じゃあどうする?
思い切って告白する?
彼の私を見る目は職場の後輩としてでしかないのは明らかだけど、告白する事によって女として意識して貰えるようになるだろう。
よし、思い切って彼に告白を……!
……いやでも……やっぱりダメだっ……勇気が出ない。
もし告白して玉砕したら次のからどうする?仕事がやり辛くなるだけだ。
それに自分も今までの女達と同じだと思われる事が何よりも屈辱的だ。
私はあんな外見だけを磨き、中身の無い上辺だけの空っぽの女たちとは違う。
そんな女たちと同等に見られるなんて耐えられない。
もっと、もっと時間をかけて信頼を得てもっともっと、出来れば彼にも私が一番身近な存在だと認識して貰えるようになってから告白しよう。
そうしよう。
どうせ彼はモテても相手が愛想を尽かしてそれ以上に進展はしないし、何より彼自身あまり色恋沙汰に興味はなさそうだ。
あるならとっくに女を取っかえ引っ変えしているはず。
仕事一筋、真面目一辺倒の彼がそこらの女に心を動かされる訳がない。
だから大丈夫。
時間をかけてゆっくりと……その間に自分も彼に告白する覚悟を決めよう。
そうやって彼への恋情を大切に胸に秘めながら、後輩からバディへ、そして副官へと立場を変えながらも常に彼の側に居続けた。
誰よりも近くに。
レグラン先輩が特別監査室の室長の席に就いたと同時に副官に任命されて更に側近くに、彼の隣に居続けた。
それなのに……まさかこんな事になるなんて。
あんな、ぽっと出の若い女にあっさり掻っ攫われるなんて思いもしなかった……!
私自身敬愛する上官、トレア法務部長の愛娘。
トレア部長の肝入りでそのお嬢さんとの見合いをセッティングされたと聞いた時、正直焦った。
だけど今回もどうせレグラン・グライユルを見た目だけのつまらない男だと思ったお嬢さんに、早々に縁談を断られるに違いないと高を括っていたのだ。
それなのに実際にはグライユル室長は見合いをしてすぐに結婚の申し込みをしてしまった。
娘の方も彼を気に入っただとか言って結婚の申し込みを快諾したという……。
そしてあれよあれよと瞬く間に彼は結婚してしまった。
なぜ?どうして?
どうして彼は会ったばかりの小娘を妻にと望んだの?
結局はレグラン・グライユルもただの男、若くて綺麗な娘を選んだというの?
こんなに側に居続けた私よりも、そんな若さと見た目と父親の肩書き以外なんの取り柄もなさそうな小娘のどこが良いというの?
私は……なんだか酷く裏切られたような気がした。
時を重ねてゆけばなんて思わずにさっさと告白していれば良かった。
そうしたらきっと彼は私のものだったはずなのに。
だってこんなにも彼の事をよく知っている女は他にはいない。
そして私ほど彼の事を支えられる女も他にはいないのに。
そうだ。
今はアレでもきっと早々に彼もわかるはず。
やはり私が誰よりも彼を理解しているという事を。
そのためには彼の妻として大きな顔をするあの小娘にもわからせなくてはならない。
レグラン・グライユルの側は、本来私の居場所なのだという事を。
少しずつ少しずつ、自分の立場をわからせるのだ。
それには副官になってから揶揄されるようになった“グライユルの仕事上の妻”という立場も有効だろう。
グライユル室長は自信がその言葉を聞く度にきっぱりと否定しているけど、その手の話って否定すればするほど怪しまれるものなのだ。
丁度いい。
実際に結婚式でリオナとかいう小娘と対峙して察した。
この女、私をかなり警戒していると。
いい傾向だ。
どんどん警戒して意識して、私という存在の大きさを理解して己の立場を理解すればいい。
若干二十歳の小娘に、レグラン・グライユルの妻なんて務まらないと早く思い知ればいいのだ。
なのに、この小娘がなかなかに強かでしぶとい。
妻として我がもの顔で彼の隣に立つ厚顔無恥さに苛立ちが募る。
若いくせにベテランハウスキーパー並の家政力で内助の功とやらをひけらかす様子に、苛立ちどころか焦燥感まで湧き上がる。
挙句の果てにこの私の目の前で行っらっしゃいのキスなんてして!!
……わかっている。
結婚して夫婦になったんだからそれ以上のコトもしているのは……。
経験がないから本で読んだ知識くらいしかないけど……。
……グライユル室長が……あの小娘に触れるなんて……想像しただけで気が狂いそうになる。
本で読んだ知識しかないけど……。
それをあの小娘、私に見せつけるようにするなんて性悪すぎる。
ホントならすぐにでもグライユル室長の頬をハンカチで拭ってやりたい衝動を抑えるのは大変だった。
本当に、どうしてさっさと告白してグライユル室長を自分のものにしておかなかったのか、過去の自分を殴りに行きたい。
でも、それでも、仕事上では私の方が彼と過ごす時間が長いのだ。
外れたボタンをすぐに付けてあげられるのも私。
一日の内、睡眠時間を除けば彼の側を独占しているのはこの私なのだ。
そんな優越感で自分を鼓舞していたのに、
私の今後を気にかけるグライユル室長に異動の打診をされた。
嫌よそんなの……そんなの私は望まない。
望んでいない!
彼の隣に立つべきは私。私であるべきなのだ。
そのポジションを誰にも譲るつもりはない。
私なら公私共にレグラン・グライユルを支えてゆける。
それを祝賀パーティーであの小娘に嫌というほと分からせて、彼の隣から追い出し時の気分は爽快だったわ。
なのに彼はあの小娘が会場か居なくなった瞬間にそれが分かったようで、他の高官たちとの会話を途中で切り上げて探しに行ってしまった。
慌てて後を追おうとしたけどその場に居た年配の高官夫人に「夫婦の間に首を突っ込む野暮はおやめなさい。貴女の品位を下げるだけなのよ」と言われて出遅れてしまった。
何もわかっていないくせにと内心思いながら、適当に返事をして彼の後を追った。
だけどようやく見つけた私の目に飛び込んできた光景に、茫然自失となる。
庭園へ出るテラスで彼はあの小娘を抱きしめていたのだ。
冷たい冬の夜の空気から守るように自らのジャケットで包み、温めるように懐に抱えていた。
まるで、まるでとても大切な宝物を守るかのように。
それを呆然と見つめながら私は思った。
あの腕の中は一体どんな世界なんだろう。
私はそれが知りたい。
私もあんな風に彼に大切にされたい。
目を覚ましてグライユル室長。
そんな我儘でなんの役にも立たない小娘ではなく私を選んで。
たとえそれが略奪だと言われても構わない。
いえ、本来ならあの腕に抱かれているのは私だったはずなのよ。
取り戻せるだろうか。
過去に告げなかった言葉を今、彼に告げたら過ちを正せるだろうか。
伝えるべきなんだ。
もう怖気付いてる場合じゃない。
彼を取り戻さなくては。
私は彼に想いを打ち明けるタイミングを模索し始めた。
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……執着系ヒーローは好きだけど、これは……
((((;゜;Д;゜;))))カタカタカタカタカタカタカタカタカタ