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第七話『相棒とアレコレ』

「いやぁ、悪いねぇ払ってもらって」


 大通りを歩きながら、フェイは頭の裏に手を当てつつ謝る。しかし普段の軽い雰囲気が保たれており、欠片も申し訳なさそうではなかった。


「俺たちは『相棒』だろなんだろ。そのうち奢る奢らねえとかの境目なんてなくなる。細けぇ活動資金もそのうち統合する気だ」

「お~本格的だ。昔、集団で商売してたのを思い出すなぁ……ま、雲泥の差だけど」


 商人とは揃いも揃って金に煩い連中である。故に集団で商売を始めたはいい物の、すぐに決めていた取り分や儲けなどの観点で喧嘩し、終わった。


「てかなんでお前金持ってねえんだよ」

「仕方ないだろう? 君が突然襲撃してきたから、荷物を持つ暇なんてなかったんだよ!」

「あ~……ドンマイ!」

「犯人君だけど」


 悪びれないヴェンの態度に、思わずフェイは嘆息する。


 ──話し合いが終わり、現在二人は腹ごしらえを終えた後である。朝を迎えてしまえば腹が減るのは、人間も吸血種も変わらない。そして吸血種は人肉以外でも栄養を摂取できるのだ。


 酒場で食事をとったのは良かったのだが、そこで問題が発生した。宿に荷物を置いていたフェイは無一文だったのである。 

 そこで普通に荷物を持っていたヴェンが代わりに払い、事なきを得たという事だ。


「でもどうしようかな~。宿に荷物は全部置いてきちゃったし、取りに帰るにしても多分無理だよねぇ」

 

 昨日の襲撃の際、ドアは壊れ、窓は割れ、部屋の中身は散乱した。当然街の治安を守る兵士などによって捜索が行われているだろうし、中の物を回収するなど不可能だ。


 だが、このままでは無一文である。

 ただ金がないだけならばいいとしても、ナイフを始めとして様々な生活道具が入っているのだ。


「だったら」


 ヴェンはそう言って、路地裏の方を指差しながらそっちへ歩いて行き、その場で跳躍すると屋根の上へ立った。

 どうやら路地裏へ移動したのは他人に見られないようにするためだったようだ。


 ファッションなのかサングラスを付け、更にピアスなんかも身に着けているというのに、随分と身軽な動きである。


 フェイも同様に吸血種の身体能力を活かし、助走無しで跳び上がった。


「俺が取ってきてやろうか」


 彼が視線を向けながら指差す先。

 近くの階段を下りた先にあったのは、ちょうどフェイが泊まっていた宿だった。


「え、いいの? ていうかいけるの?」


 フェイもそちらを見れば、宿の周囲には少し人だかりがある。

 時々出入りしている鎧を着た人物は兵士だろう。やはり調査が入っているようだ。


 そんな状況なのに、フェイの荷物を取ってくる事など可能なのだろうか。


「暴れたりしちゃだめだよ? 面倒だし」

「安心しろ。誰も殺しやしねェよ」

「そう?」

「何取ってくりゃいいんだ?」

「えっと──」


 そうしてフェイは宿に置いておいた荷物の中でも、金銭や生活道具の入った入れ物などを伝えた。


「んじゃ、行ってくるわ」


 ヴェンはその場にしゃがみ込み、跳躍を繰り返し屋根を伝っていく。

 あっという間に彼は景色の中へ消えていった。


~~~~~~~~~~~


「──お~~~し!」


 そうして待つ事十分弱。

 再び屋根を伝い、フェイの眼前に勢いよく着地したヴェンは、目の前に荷物を落とした。


「これで良いんだろ? とりあえず持ってけるだけ持ってきたぜ」

「おおおお! すご~い! 手癖わり~! やるねぇ『相棒』!」

「褒めて……んだよな?」

 

 首を傾げて疑わしそうにしているが、フェイはそれを無視して荷物を確認していく。

 金銭を含めそれだけあれば生活を送れそうな物ばかりだ。最初に望んでいた物より数が多い。どうやら全てとはいかないにせよ、荷物のほとんどを取ってきてくれたようである。


「凄いけど、どうやって取ってきたの? 騒ぎになってないって事は暴れてないんだろうし」

「借金取りのフリして入ったんだ。簡単だったぜ? ──私は彼に金を貸していた! 失踪したからといって、私はその分の金品を手に入れる正当な権利がある!!──なんてな」

「へぇ……アハッ、芸達者だね」


 拳を振り上げながら演技をするヴェンに対し、面白そうに笑みを浮かべるフェイ。

 実際、彼の物真似はそれなりの迫力があった。。その道の専門家ならば欺けないだろうが、何も知らない素人ならば騙せるのではないだろうか。


 借金取りが取り立てに来るというのも良くある話だ。そして、その為に多少強引な手口を取る事も。

 家族が近くにいる場合は別だが、金を貸していた相手が失踪すれば戻ってこない可能性が高い。事前に保険として金品を預かっていた場合は別だが、そうでない場合は散々だろう。


 だからこそ、ヴェンが真似た様に、強引だが金品を回収しに来る金貸しは多いのだ。


「兵士がいない隙を狙ったからな。多少強引だったが、事件が起きてみんな混乱してる。違和感があっても無視しちまうもんさ。宿側としても、これ以上騒ぎを大きくしたくないだろうしなァ」


 そしてヴェンはその違和感を突いた。

 手口が慣れているところを見ると、過去に経験があったのかもしれない。


「どうだ? こういう点でも俺は役立つぜ」

「いいね。単に強いとかよりもこういう能力ある方が僕好みだ」

「そりゃ結構。──窃盗強盗殺人演技交渉……後は料理や家事も出来る」

「アハッ、なんでもござれだねぇ!」


 その手の事はフェイも出来なくはないが、恐らく今は少し難しい。性格が変化した事もあり、フェイは少し頭のネジが外れている。

 こんな状態で常人と接すれば、いつボロが出てもおかしくないだろう。


「そういや、部屋の外に物が落ちてたが……あれはお前が落とした奴だよな?」

「ん? あぁ、そうだね」


 あの襲撃の直後。

 フェイはガラスを破壊したのと同時に、部屋の物の一部を掴んで外へ放り投げていた。


「なんであんな事したんだ?」

「いやぁ、どうせ調査が入る事は分かり切っていたからバレないように攪乱しようと思ってね。地面に物があれば、屋上に移動したとは思わないでしょ~?」

「……お前、案外考えてんだな」


 ヴェンの意外そうな声色に、フェイは得意げに笑みを浮かべる。

 その反応から察するに、実際兵士たちは地上を調べているのだろう。屋上に移動したことがわかったところで痛手ではないが、念には念を入れたのだ。


「さて、腹ごしらえは済んで、物の回収も済んだ。となれば次にやるべきは──」

「──状況整理と作戦会議」

「だな」 


~~~~~~~~~~


「まず、俺たちの目的を明確にしよう」


 マクシム西部、ヴェンが取っている宿にて。

 フェイがベッドに胡坐をかき、ヴェンがそこから少し離れた椅子に足を組みながら座っているという構図で、話しは始まった。


 部屋主であるはずのヴェンが椅子に座っている理由は、フェイが部屋に入るなりベッドで寛ぎ始めたからである。

 彼はしかめっ面をしていたが、やがて諦めた様に椅子を選んだという訳だ。


「──俺たちの目的は、吸血種の頂点たる『七連星セブンス・ワン』を探し出す事。そして各々の相手を殺す事」

「君は母親の仇を取るために。僕は愛の為に好きな人を殺す」

「要するに利害の一致。そのために俺たちは手を組んだ」


 ヴェンは帰りに露店で購入した赤い果物を取り出し、次に何処からともなくナイフを取り出した。


「ヴェンってさ」

「なんだ」

「ナイフ何本持ってるの? もうそれ十本目とかだよね?」

「銀と鉄を分けなきゃ数十本はある。持っといて損はないからな」


 彼の羽織ったコートが僅かに揺れる。様々なものをそこから取り出している事を考えれば、恐らく隠し持っているナイフの全ては服の内側にあるのだろう。


「話を戻すぞ。当然だが、『七連星セブンス・ワン』の情報は皆無に等しい。俺もほとんど知らん」

「長い事『吸血種殺し』やってるのに?」

「逆だ。長い事やってんのに情報が集まらんほど知ってるやつが少ねえ。当然殺してきた吸血種の中にも知ってるやつはほとんどいなかったし、いても口を割らなかった。不思議なぐらい堅てえのさ」

「へぇ……」


 忠誠心が深いのか、それとも知っていても話せない類の術でもかけられているのか。

 それは定かではないが、そこら辺の吸血種を捕まえて尋問した程度では、『七連星セブンス・ワン』に辿り着けないという事だろう。


 ヴェンは組んだ足を少しだけ平たくすると、その上に皿を置いた。

 ゆっくりと果物の皮をむき始める。


「一先ず俺たちがやる事は、情報を手に入れて少しでも『七連星セブンス・ワン』に近付く事だ」

「手掛かりはあるの?」

「ぼんやりとだがな。──曰く、この世界の極北には吸血種たちの『楽園』があるらしい」


 皮をむき続ける。


「そこに数多の吸血種が生活していて、国を作りあげているそうだ。当然誰も認めてねえし、他国と交流なんざしてねえ、誰も認めない国家だろうけどな」

「極北……具体的には?」

「さァな。俺も殺した吸血種から聞いただけだ。ただ、少なくとも『大陸』は出る必要があるらしいぜ」


 現在二人がいる国、シェリル王国の位置するのは所謂『ラフルム大陸』と呼ばれる場所の南方だ。

 吸血種の楽園と呼ばれる国は極北という話だから、恐らく『ラフルム大陸』を飛び越える必要が出てくるだろう。


 そして、シェリル王国を含めた周辺国に住む人々にとって、世界とは『ラフルム大陸』全域の事である。


「へぇ……それじゃあ、長旅になるね」

「下手したら十年単位だ。まァ、俺らには『寿命』の概念なんざ関係ねェ」

「あ、吸血種ってやっぱり長寿なんだ?」

「当たり前だろ」


 フェイは『何言ってんだコイツ』という目線を受け取った。

 吸血種について説明された時、言ってなかったような気がするのだが、全てを話していた訳ではないのだから仕方がないだろう。


 皮をむき切ったようで、ヴェンはそれを新しく取り出した更に上に置き、何等分かにするとナイフに付いた果汁を拭いた。

 

 それが終わるとナイフを懐に仕舞い、一人で食べ始める。


「あ、僕にも頂戴よ。あ~~ん」

「めんどくせェ」

「んぐ。素直じゃないなぁ、ありがと~」


 胡坐をかきながら口を大きく開ければ、悪態と共にヴェンはわざと残していた皮の部分を摘まみ、そのままフェイの口目掛けて投げた。

 狙い通り真っすぐ口の中へ入った果を歯で抑え、フェイはゆっくりと食べ始める。


「『廻祖』である俺は若干短いが、それでも吸血種の寿命は数百年から数千年だ。最長の吸血種なんざ一万年単位で生きてるって噂だぜ」

「生きるのに飽きそうだ。『退屈』じゃないのかなぁ」

「さァな。お前の恋人に聞いてみたらどうだ。『姫』なら多分長生きだろ」

「こら~! 恋人じゃないよ! まだ気持ち伝えてないし」

「あァ、そ」


 流れで言っただけで興味はなかったのか、フェイの反論に対し適当にヴェンは流した。

 そして再び口を開けて唸っているフェイに彼は欠片を投げつける。


「んぐんぐ。そういやヴェン何歳なの?」

「二十五歳だ」

「わかっ」

「お前は?」

「十九歳」

「お前の方が全然若いじゃねェか……」


 せっかく長寿の吸血種だというのに全然若者の二人である。これは太陽や同族争いなどが多く、寿命は長いが短命が多いという事も影響しているのだろう。


 雑なフェイの言動にため息をつき、ヴェンは果物を摘まんだ。


「それで? その楽園とやらに行くために、まず何をしようか」

「……王都だな。シェリルの王都、『フォルリア』へ行く」

「まぁそれがいいかな。長旅なら一度しっかりと道具を集めた方がいいし、王都なら色々と情報も手に入る。交通の便もいい」

「それもあるが、王都には『賢者の大図書館』がある」


 しゃくり、とヴェンの口の中で果物が砕けた。


「『賢者の大図書館』。かつてラフルム大陸を救ったとされる大魔法使い、通称賢者が建てた大陸最大の図書館。そこには大陸外の知識もあれば、世界地図なんかも展示されている」

「いいね! 初めて知ったけどそんな魅力的な場所があるなんて」

「俺も行った事はねえが、もしかすると『吸血種』についても何かわかるかもしれねえ。なにせ歴史のある図書館だからな」

「んじゃあ決まりだね」


 様々な観点から考えても、一先ず王都へ向かうのが先決である。

 大陸を出るにしても、ラフルム大陸を北に直進した場合、ぶち当たるのは大海だ。


 極北を目指すのなら大海を突っ切るか、東西に直進してから北上するかを選択する必要がある。それを判断するには、恐らくフェイもヴェンも世界の地理に対する知識が足りない。

 そしてそれを調べるにしても、地方都市であるマクシムでは施設も人も足りないのだ。


「そういえば、ヴェンってなんでこの街に来たの? 吸血種の噂でもあった?」

「ん? あぁ……そういや忘れてたな。──俺はこの街に『星聖教会』の人間を探しに来たんだ」

「お……?」


 星聖教会。

 即ち、世界最大宗教。


 ふとフェイの脳裏に、月夜の景色が浮かんだ。


「用事でもあったの?」

「いや……俺は数十日前まで東の方で『吸血種』を探していたんだが、ちょうど滞在してる時に、『星聖教会』の特別部隊が西へ移動しているという噂を聞いてな。教会の特別部隊って言えば、『怪物退治』を専門とする教会最強の人間たちだ」

「へぇ、初耳」

「秘密部隊だからな、表には出ねえ。まぁ『裏』だと有名な話だ」


 薄い壁が存在するだけで、世界とは意外と不可思議に溢れているものである。フェイはこの数日間でそれを酷く実感した。


「んで、特別部隊が移動してるって事は、目的地に怪物……まぁ教会が敵視している『魔王種ヒュームノヴァ』か『吸血種ヴァンパイア』がいる訳だ」

「『魔王種ヒュームノヴァ』?」

「そうか、シェリル王国の人間には馴染みがねえか……まぁ説明すると長げェから、今のところはエルフとかドワーフみたいな『異種族』の一種だと思っておけばいい」

「は~~い」


 世界には──数は少ないがシェリル王国にも、人間と酷似した骨格と身体を持ちながらも、特定の機能などを持った『異種族』が存在する。


 『魔王種ヒュームノヴァ』とはその一種であるらしい。記憶が正しければヴェンの吸血種じゃない方の種族はそれだった気がするのだが、母親が殺されたという話だし、なにやら込み入った事情があるのかもしれない。


 フェイは狂人だが、無神経に人の心に踏み入ったりしない。

 ただそれは気遣いではなく、単純に人の激昂を見ても『退屈』だからである。


 面白かったらやる。


「そこで『吸血種殺しヴァンパイア・ハンター』である俺は特別部隊を追いかけてきた訳だが、生憎消息が途絶えた。どうしたものかと市場で情報収集を行っていたら、お前を見付けた訳だ」

「はぇ~、なるほどねぇ……」


 どうやら、全ては繋がっていたらしい。


 フェイには、『星聖教会』の特殊部隊がどうなったのか。そしてどうしてマクシムを目指して移動をしていたのか。

 

 その全てに心当たりがある。


「……えーと、ヴェン。多分だけどね?」

「ア? なんだよ」

「その特殊部、全員──俺の好きな人が殺しちゃってるわ」

「…………マジ、かよ!?」


 驚き、ヴェンの体が跳ねる。

 膝の上に乗せていた皿が跳ね、同時に果物が床へ落ちた。


「あれだよな、お前の好きな奴って、『姫』……『月雫の吸血姫スティラヴァンプ』の事だよな?」

「うん。本人はただ『星聖教会の人を殺した』って言ってたけど、多分状況的に間違いないと思うよ」


 あの夜、崩れた教会の頂点に立つルナの足元には、大量の死体が転がっていた。

 今思えばそれらは特別部隊の隊員だったのだろう。


「全投入したって話だぞ? 『星聖教会』の特別部隊って言えば、俺だって何度も追い詰められた。一人一人が国の騎士団員を遥かに超える練度を誇るっていう、最強最悪の部隊だってのに……それが全滅だと?」

「それって、凄いの?」

「王国騎士団を一人で壊滅する事の数倍は凄い。街程度なら何個も単独で滅ぼせるだろうな」

「すごッ!」


 しかもフェイの記憶によれば、教会以外、周囲に被害は及んでいなかった。それはつまり戦闘が激化するほどの隙を与えずに殺したという事に他ならない。

 

 更に言えばルナは無傷だった。

 再生した可能性も無くはないが、何となく、傷を負う事無く返り討ちにしたのだろうとフェイは思った。


「信じらんねェ……だが、吸血種の『姫』ならそれぐらいやってもおかしくねェ……」

「アッハハ、そうこなくっちゃね♪」

「はぁ~~~……俺の父親もそんぐらい強ェって事だよなこれ……」


 敵が想像の何倍も強いと知り、喜ぶフェイと頭を抱えるヴェン。

 それを見て、フェイは足を組み、太ももの上に肘を乗せ、更にその上に顎を乗せた。


「いいじゃん。超えていこうよ、『相棒』」

「……超えなきゃいけないの間違いだ、『相棒』」


 深いため息を一回。

 そして彼は立ち上がる。


「こうなりゃ、お前にも早く強くなってもらわなきゃ困る。旅の途中に何度も戦う機会があるだろうしなあ」

「お、何か手段が?」

「吸血種ってのは大きく分けて、二つの力を持つ」


 二本、彼は指を立てた。


「一つはお前も当然のように使ってる『再生能力』。そして俺が使ってるような血液を自在に操る『血液操作』。この二つを使える・・・ようになる事が一人前の吸血種……『上級吸血種』の証だ」

「あ、なるほどねぇ」


 以前襲ってきた二人組の吸血種が『上級』と口にしていた事を、フェイはずっと疑問に思っていた。

 だがそれは、二種類の能力を使いこなせる吸血種、という意味だったようだ。


「でも僕はもう『再生能力』については使えるんじゃない?」

「いいや、お前のは自動的に発動しているに過ぎねえ。使えるってのは要するに、操ってこそだ」


 そう言うと、ヴェンはナイフを取り出し、おもむろに自分の指を切断した。

 何時も通り数秒も経てば再生が始まり、元通りに──ならない。


 再生はせず、血が噴き出し始めた。


「おぉ?」

「こんな風に」


 やがてゆっくりと、切断された指が再生を始める。ただしその速度は非常に遅い。まるで眠くなりそうなほどだ。


 しかしヴェンが指を振ると、その瞬間に全てが再生した。

 今ままでの鈍足が嘘のようである。


「抑えるのも、瞬間回復も操ってこその『再生能力』だ。勝手に治るだけの再生を『力』とは言わねえよ。お前このままじゃピアスすら付けられねえぞ」

「あ、君の耳のそれ、穴開いてるな~とは思ってたけど再生力を抑えてるから塞がらないんだ」

「そォいうこった」


 次に彼は掌を上に向けた。

 同時に血液が噴き出し、それがやがて棘の様な形を形成する。


 それは路地裏の階段道において、ヴェンがフェイに放った技の小型版だ。


「そしてこれが『血液操作』。体内や周囲の血液の形状や性質を変化させ、操る術だ。魔法の『鮮血魔法』に似てるが、吸血種のは別格だな」


 ヴェンは血液で編んだ枝を消し、フェイへ視線を送る。


「──お前にはこの二種類の力を習得してもらう。それが最強への近道だ」

「へぇ……」


 笑っていたフェイの顔が、更に妖しく歪む。


「──面白い。そういうの僕好みだ」


 そして勢いよく体勢を起こし、ベッドから飛び起きた。


「それじゃッ! ご指導ご鞭撻のほど頼むよ、ヴェンデッタ」

「へいへい。精々早く役に立て」


 身長的に見下す形となるヴェンと、見上げるフェイ。

 

 そうして二人の訓練が始まった。


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