プロローグ
──その日、少年は運命に出会った。
視界に色が付く。
止まっていたはずの心臓、心が躍動するのを確かに感じた。
「君は」
震えながらも確かに飛び出た言葉に、彼女は首を僅かに傾けながら反応を見せる。
僅かに開かれた桃色の唇、鮮血のように赤く力強い瞳。壊れかけた教会の上からこちらを見降ろしているだけだというのに、その一挙手一投足が美しい。
「一体……」
自然と続いたのは、そんなありふれた文言。
頭が目の前の現実の理解を拒み、危険信号を出して唸っている。思わず蹲りたくなるほどの頭痛だというのに、少年は目を離す事が出来なかった。
「──私?」
それは鐘のように澄んだ声だった。
周囲に散らばる死体も、むせ返る様な血の匂いも気にならない。五感全てが彼女の声を捉えて離さないのだ。
声にすら色を感じる。
世界のように雑多でもなく、孤独のように透明でもない。
黒より黒い、鮮血の様な赤色の聲。
「私は──」
そして紡がれる彼女の正体。
あまりにも残酷で、衝撃的で、それでいて美しい。
「──私の名前はセラルナティカ。ただのルナ。ちょっぴり強くてとっても可愛い、普通の『吸血種』だよ」
その日、少年──フェイルア・アルグランスは命を落とした。