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第9話 しつこい吸血鬼

 街道の内側にごろんと寝転び早々に就寝を決め込んだ私に、街道の外側で仰向けに寝転んだ男が延々と話しかけてきていた。頼むから、寝かせてくれ。


「なあヒトー。 お前、どこに向かってるんだ?」


 ちらりと男の方を見ると、興味津々といった表情で私を見ていた。私が何も答えないと、男はひとりでどんどん喋り続ける。


「俺さ、吸血鬼一族の集落から離れた所はひとりで行ったことがなかったんだよなー。『シス様を自由に行動させると多種族と揉めそうですから駄目です!』なーんて言われてさ。どこに行くにもお目付け役が同行だしよー。そこまで馬鹿じゃないって。なあ?」


 こういうのって籠の中の鳥っていうんだろ? なんて言って笑う顔は清々しいほどに明るくて、それが若干哀れみを誘った。


 亜人でも、そういう面倒くさいのがあるらしい。種族は違えど、ヒトだけが住む済世区サイセイ・ディストリクトの外を知らなかった私と一緒じゃない。


 そう思うと、ちょっと親近感が湧いた。


 きっと、だからだろう。少し会話をしてみようかな、なんて思ってしまったのは。まあ、相手が超絶美形で、敵意が今のところ殆どないこともその理由のひとつだけど。


「……ネクロポリスって知ってる?」


 どうやらシスという名前らしい吸血鬼の美男子は、私の態度がやや柔らかくなったのに気付いたらしい。ゴロンとうつ伏せになると、逞しい腕でにっこにこのまま匍匐前進で近付いてきた。


「何だそれ? 食い物か?」


 何でも食べ物に直結させるのはやめてほしい。呆れたのと同時にあまりにも間抜けで可笑しくて、つい「ぷっ」と吹いてしまった。


 腕を組んでその上に顎を乗せ、足を上に向けてプラプラとさせている姿からは、警戒心なんてまる感じられない。大きな身体に宿る子供みたいな心と接している内に、警戒しまくっている自分が馬鹿らしくなってきた。


「むかーし、この辺一帯を統括してた国の中心だったメガロポリスだよ。知らないか」


 すると、男の顔がぱあっと晴れた。


「それなら聞いたことあるぞ! 昔ヒトが沢山住んでたすっげー背の高い建物が一杯ある所だろ? 建物の崩壊があって危ないから近寄っちゃ駄目だって言われてる『死の都』ってやつ」

「その『死の都』がネクロポリスのことだよ」

「へー! ヒト、物知りだなあ!」


 だから、その呼び方。そう思ったけど、名乗ってないから仕方ない。


「私、どうしてもそこに行かないといけないんだ。だから、場所が分からないから聞き込みしながら向かおうと思ってたんだよね」

「聞くって誰に? さっきも言ったけどさ、お前みたいな美味(うま)そうな匂いした奴、一瞬で食われるぞ」


 まあ、俺はそんな野蛮じゃないけどな! と鼻高々で言うシスが、ちょっと可愛い。


「そのネクロポリスに用があるんだな? なあヒト、それ俺が護衛としてついていってやってもいいぞ」


 シスの言葉から滲み出る、隠しきれない高揚感。多分、シスは――外の世界に興味があるんだ。


「……私のこと、食べる気なんじゃないの?」


 亜人を信用するのか。さっき食べられそうになったばかりじゃないの。そうは思うけど、自分を止められなかった。多分、たった三日間ひとりでいただけだけど、私も寂しかったみたいだ。


 シスが、首を横にブンブン振る。


「食べない! ちょっと味見はしたいけど、お前と一緒にいたら何か楽しそうだから勿体ないし!」


 食欲と外界への興味を天秤に掛けて、興味の方を取ったらしい。分かりやすい。


 でも、だとしたら、私への興味を失った瞬間に護衛をやめてがぶり、なんて可能性もある。目的を達成する前に吸血鬼に血を吸われて干乾びました、なんて冗談じゃない。


 なにか、確約できるものが欲しい。なにか――。


 そして、思いついた。実際にそうするつもりは毛頭なかったけど、移動中私の身の安全を確保出来、かつ目的地までの護衛を確約出来る素晴らしい案。私って天才かもしれない。


「……そうしたら」

「うん! なんだ!?」


 シスが目を輝かせる。


「無事にネクロポリスに辿り着いて目的を達成することが出来たら、護衛の報酬に血を吸わせてあげてもいいよ」

「い……いいのか!? デザートじゃなくて、食事!?」

「うん」


 シスが飛び上がった。

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