沈めたもの
「さ、本題に入りましょ。柚原七世に何をさせたのか、から話しなさい?」
あー、やっぱバレてんのね。
「なんの事かな? 」
座り直してオーバーに手を広げてみせてとぼける。
「とぼけないでちょうだい。カナリアは貴女だけじゃ無いのは知ってるでしょう?」
開いた腕を強制的に閉じられる。そして、
「私は既に聞いてるのだけど、随分とまぁ可愛い失敗をしたらしいわね? 」
耳元でこそっと呟かれる。…………あぁくそっ、あの雲雀共……どこから見てやがったんだ……
「…………夜久乃姉の調査の続き、それもより突っ込んだことを調べさせようとした。これでいいか? 」
「20点」
「辛いな。なんで80点も減るんだ?」
「私に断りなく動いたことが40点。柚原七世はカンがいい、故に不用意にエサを与えればそのまま指まで齧られる恐れがあるわ。…………それこそ調べてしまうでしょうね、『風瀬』のことも乙女の本当の名前も」
「違う、俺は陸原乙女だ!!」
ノータイムで返した言葉にハッとなる。今、何を言った……? 俺が……?
そんな様子を見て夜久乃姉のため息が続く。
「だから危険なのよ、乙女。貴女は既に吹っ切れていると思ってたのにその反応、危険極まりないわ」
「…………夜久乃姉が急に振るからだろ」
「予告してくれると思ってるの?」
「それは…………」
何も言い返せない。8年も前に沈めた理由が急浮上しつつあるのを、そっとまた蓋をして沈めていく。
「↮இおとめ」
「うがぁぁぁ!!!!」
止めろっ、止めてくれ、やめてっ、
「や、めて、やくの、ねぇ……その名前だけは止めて、呼ば、ないで、頼む、からっ、」
椅子から転げ落ちて後ずさる。そして聞いてしまったその名前を耳から追い出そうと藻掻いて、足掻いて、夜久乃姉に縋り付く。
「…………ね? こうなるでしょう? だからこそ柚原七世には私達の情報は与えたらダメなの」
「…………理解した」
椅子に戻りつつ身なりを整える。成程、確かに柚原七世は危険な存在だ、心しよう。
「で、残りの40点は?」
「それは決まってるでしょう?」
……む、嫌な予感が
「乙女、貴女の口から『何をしていたか』が聞けてないからよ」
「いや他のカナリア共から聞いたんだろ? それで全てだ」
「いいえ。あの子達も遠巻きにしか見てないから話してた内容までは分からないと言ってたわ。見たのは貴女の腰布が翻るところと緩んだ顔位だと」
「誰が間抜け面してただって? あれはなぁ……」
と滔々と話し始めてからこれが夜久乃姉の策だと気づいたものの、止めようもないのでそのまま夜久乃姉へとありのままを話すことになってしまった……