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連行。

…………断っちった。情報屋の手を振り払っちまった…………

俺ーー陸原乙女は放課後の廊下でため息をつく。柚原のクラスを見つけ出したのはいいけれどそこからが問題だった。いきなり顔を近づけられたかと思えば校舎裏に連れ出されて……ぱ、ぱん……見られて…………挙句申し出まで断られて…………はぁ、何やってんだ俺は…………

「ああくそっ!!」

悔し紛れに裏拳でそばの壁を殴ると、通りすがりの女子生徒が「ひぃっ!?」と振り返る。

「…………あぁ、サーセン」

軽く会釈してそのまんま行こうとすると、

「乙女」

後ろっから今一番聞きたくない声が聞こえてくる。

「や、……風瀬先輩」

うげぇ、見つかっちまった……

「…………どうしてこんなとこに居られるんです?」

「それは此方の台詞よ」

つ、と指差したその先を見つめると3年2組の札が下がっていて。どうやら考え込んでいるうちに迷い込んでしまったようだ。

「ちと考え事してて迷ったみたいです。それでは」

適当に誤魔化して立ち去ろうとすると、腕を掴まれて、

「あら、貴女面白そうね。ちょっと付き合いなさい? 」

げっ、また始まった…………夜久乃姉のいつものパターンだ……。気になるものを見つけると「ちょっと付き合いなさい?」で有無を言わさず自分のフィールドに引き込んで籠絡するクモみたいなやり方…………。え、その先はどうするのかって? そ、それは…………えっと…………

「い、いや急いでるんで」

こうなったら最後、夜久乃姉は離してくれないのでひとまず逃げの手を使おうとするのだけども、踏み出した1歩目にすかさず夜久乃姉の足が重なる。そしてトドメには耳元で

「乙女、命令よ? 」

「ひ、ひぇぇ…………」

毎回のように捕まっちゃうのだ…………


「全く、貴女って子は」

俺の左手に綿球を押し付けながら夜久乃姉が呟く。

「アチチ、もうちょい優しく頼むって……」

「自業自得でしょう? 」

ごもっともです……

「はい、とりあえず傷は消毒したから。包帯は自分で巻きなさい」

「いや包帯なんて要らないから。小傷だし」

「……手のひらをグーパーして見せてみなさい?」

ぎくっ……ぐー、ずきっ、ぱー、ずきんっ。

「……まずは湿布からね? 」

「………うぇーい」

仕舞いかけた救急箱をまた開いて、夜久乃姉が慣れた手つきでテープ型の湿布を左手に巻いていく。

「こうして乙女を手当するのも久しぶりね。昔を思い出すわ」

「悪かったですねお転婆でね」

「しかも無鉄砲で呆れるような怪我をして。そのせいで何度代役を立てたか」

「…………反省してまーす」

ちぇっ、今更それ言うのかよ……

「はい、終わったわ」

湿布グルグル巻きにされた手をグーパーして確かめる。ん、いいかな。

「…………それ、まだ使ってんだ」

巻き終わりをカットする為に取り出した古びたハサミは、夜久乃姉の手には少し小さくて。

「ええ、先生は安いものよりもいいものを使いなさい、って常々言ってたでしょう? 20何年と使ってきたはずなのに切れ味は落ちてないわ」

夜久乃姉が光にかざすと、刃先はサビひとつなく輝いていて、

「……確かにその通りみたいだな。この分だと箱の方が先にダメになんじゃねぇの?」

キイキイと蝶番の軋む救急箱の蓋を開けたり閉めたり。蓋に書いてあったはずの文字も、もうかすれて消えかけてて。

「あら、ダメになったとしても直して使うわよ。勿体ないもの」

「……流石に無理だろ、何年ものだよこいつ」

「ええと、確か先生が始めた時のだから……」

「30年はとうに越してるのか……」

そりゃ傷むよなぁ……使いまくってるしなぁ……

「ふふっ、乙女が一番この箱のお世話になってただけに思い入れも強いんじゃないの?」

「うっせ。…………でも夜久乃姉がそれの世話になってるとこ見たこと無いよなぁ」

「気をつけてるからよ」

「そんなもんか?」

「そんなもんよ」

俺から救急箱を取り上げた夜久乃姉はパタンと蓋を閉じると、

「さ、本題に入りましょ。柚原七世に何をさせたのか、から話しなさい?」


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