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見えないもの。

「…………あー、えーっと…………どうする? 」

「どうするって…………何をだ?」

「いや依頼の話。乙女ちゃんから切り出した話じゃん?」

「お前……あくまでも上の名前は呼んでくれないんだな……」

さっきからしょげっぱなしの乙女ちゃんをよしよししながら、頭は既に依頼モード。昨日今日知ったばかりの仲で私に振ってくる依頼といえば十中八九夜久乃先輩絡みの話だ。あとの一は多分おむねの健康の話だろう。

「…………む、なんだその目は? 」

「バナナ豆乳飲むといいよ?」

「……?なんの事か分からんが覚えとく」

これで乙女ちゃんもナイスバデーの仲間入りかもね、とか余計な事は言わずに置いといて、

「それで? 依頼ってなんなのさ? 」

「ああ、そうだった、そうだったな」

またもや戻るキリッとモード。いやもう遅いけどね?

「…………様子を観察して欲しい奴が居る」

「夜久乃先輩の事なら乙女ちゃんの方がよく知ってるでしょ? 」

「違う。夜久乃姉じゃない、というか用もなく近づいたら首元掴んで窓から捨てるからな?」

「ひえっ」

襟元をそっと確かめる。うん、まだ首はついてる…………

「…………夜久乃姉のことはそのうち頼むかも知んねぇけど、今は違うんだわ」

頭の後ろをポリポリと掻きながら伏し目がちに乙女ちゃんが話しだす。

「………………暁乃のこと、また見張っててくれ」

わーお、十中八九の余りの一はそっちだったか。

「……それはあれですか、なんでまた?」

「昨日話したろ? 俺もあいつのことが気になってんだよ。ちゃんとメシ食ってんのか、爪はきちんと綺麗に整えてるか、変な誘いに釣られてないか、あとは……」

「オカンですか乙女ちゃん」

いやむしろストーカー?

「オカンちゃうわい。……と言いつつよく考えたら否定できねぇな今の言動」

ふぅと天を仰ぐ乙女ちゃん。……なるほど、張るものが無いとこうなるのか……

「でもそれだけ心配してんのは事実その通りだからよ、否定は出来ない。だからお前に任せたい」

一転して今度は真っ直ぐな視線を向けてくる。けど私は真っ向からそれを受け取ることはせず、

「その依頼はお断りです」

「なっ……なんでだよ!? おいっ」

胸ぐらを掴まれて持ち上げられる。驚いたな、窓から捨てるって脅しだと思ってたけどほんとにやられそう。そういえば同じ階の子を抱えてどけてたっけ。

「依頼ってのはちゃんとお互い納得ずくでやるもんでしょう? 少なくとも私はそう思ってますしそうやってきたつもりです。なのであたしが納得してないから依頼はダメでーす」

「何を今更っ、というかどこがダメなんだよ」

「…………乙女ちゃんと夜久乃先輩、なんか隠してますよね。しかも一番核心に近いとこ」

パッと手が離されて地べたに落ちる。もぅ、もうちょっと優しく扱ってくれないもんかなぁ。

「…………悪いな情報屋。この話は聞かなかったことにしてくれ」

それだけ言うと、乙女ちゃんは背を向けて足早に立ち去ろうとする。

「…………えぇそうですねぇ、このままだとお互い信用できそうにないし」

「じゃあな」

手をヒラヒラと振ってみせる乙女ちゃん。

…………さて、これからどうしようかなぁ。

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