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訪問と来訪と。

えーっと、こっち、かな……?

夜久乃先輩?からのメモを頼りに高等部の菊花寮をうろうろちょろちょろ。途中寮監さんに見つかってすたこらりんさっさのさ。うぅー、お部屋は一体どこなのさっ!!

そんなこんなでなんとか見つけたお部屋らしき所。ネームプレートすら無いから合ってるかどうかもわかんないけどとりあえず入ってみるかなぁ。と、ノックしようとしたら。

「待て。夜久乃姉の部屋に何の用だ」

暗がりからスっと手が伸びたかと思えば、ドアの前に立ち塞がるように体が割り込んできて、

「……あん?なんだこいつ」

で、でっけー…………けどちっちゃい?

「待て、お前どこを見ている」

「え? なんですかいきなり」

「答えろ、いや答えなくていい、視線の向いてる先でわかる。お前も俺がまっ平らだといいたいのかそうだろ?」

「ええー、ほんとになんなんですかいきなりーっ!? 確かに身長大きいなーとは思ったけどぺちゃんこだなーなんて思ったりは」

「やっぱ思ってんじゃねーか!?だから視線が」

「っ、あなたが大きいから目線が合わないんであって」

「乙女、そこまでにしなさいな」

間に割込むように扉が空くと、夜久乃先輩が顔を覗かせる。

「あ、夜久乃先輩。呼ばれたので来ましたー」

「なっ!? お前が夜久乃姉に呼ばれた奴だったのか」

「乙女」

「うっ…………」

おやおや、さっきまでの威勢はどこへやら、立ち塞がってきた人は背中を丸めて縮こまる。

「あ、夜久乃先輩これ」

忘れかけていた本来の目的を思い出して、レポート用紙を突き出すと

「ご苦労様。中身はこの後じっくり読ませてもらうから」

「分かりました、では私はこれで」

すたこらさっさか逃げ出そうとすると、

「あら、残ってきなさいな。それとも報酬は要らないの?」

ほう…………しゅう…………?

「先程バナナが届いたところなのだけど」

ばな…………な…………?

「先週の前払いに使ったものと同品質よ」

「おじゃまします」

即決即断。うん、いい響きですね!

「ま、待て……夜久乃姉の部屋にそんな気軽に入るな……」

うわまだ居たよこの人。

「乙女、それは私の客人と何回言えばいいの?物覚えが悪い子は嫌いよ」

「分かりました、ではお客さんこちらへどうぞ来やがってくださいまし」

また態度が変わった…………面白い人だなぁ。

「それでは改めて、おじゃまします」

一歩足を踏み入れると、

「あれ? 」

なんでこんなに薄暗いんだろう……と思ったら、

「乙女、電気付けて」

「あいよ」

パッと明るくなると部屋の全体図が分かってきて……おや? そこに居るのは……?

「か、風瀬さまぁ……」

寮の同じフロアの子が部屋の隅で正座させられてた。

「あぁ、これか? こいつに夜久乃姉からお前へのメッセンジャーを頼んだんだけど、あろうことか直接渡さずに扉に挟むなんて迂遠な真似をしたからお仕置されてるとこだ」

夜久乃先輩の代わりにさっきの人が解説してくれる。あ、ども。

それを一瞥すると夜久乃先輩は正座する子を見下ろして

「ダメね、貴方は。命じたことから外れたことをするなんて」

「だ、だって…………その方が風瀬様のミステリアスさが際立つかなって……」

「アドリブをしろとは命じてない。段の上で勝手なことをするなら去ってもらう」

「そ、そんな…………私は風瀬様の為に……」

「行きなさい」

出口の方を つ、と目線で指し示すと、よろよろと立ち上がって正座の子が歩いてく。

「……ああ待ちなさい、それでも呼んで来るという役は出来たのだから褒美が必要ね」

「ごほうび…………」

一転して目に光が宿り、

「そうね、貴方は『私のものになった証が欲しい』んだったわね。なら……」

すすっ、と夜久乃先輩の手が動いて、あの子の頬から首筋、そして胸元へと忍び込んで声を漏らす。と思えばその手が抜け出して今度は膝からスカートの中へ忍び込んで…………あれ、なんで横の人は目を背けてるんですかね……?

「……はい、終わり。貴方に傷はまだ早い」

「そ、そんな……触ってももらえないなんて……」

「あら、この私が一時の迷いで同じ演者をキズモノにすると思って?…………本当の傷は本当に好きな人に付けてもらいなさい、それまでは預けとくから」

「は、はひぃ…………」

空気が抜けたようにへにゃんと座り込んだ子を夜久乃先輩は見下ろしつつ、

「乙女、捨ててきなさい」

「…………」

あれ、おーい横の人ー、呼ばれてますよー?

「乙女…………陸原乙女 」

「…………穢らわしいからヤダ。けど夜久乃姉が言うならやる」

そう言うが早いか、その子の襟を掴んで立ち上がらせるとずるずると引っ張っていって。

「……さて、一章へと移りましょうか」

「あ、あの…………色々とありすぎて何が何だか……さっぱり……」

混乱して目を回す私をさらに見下ろして夜久乃先輩は、

「……バカな人」

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