新ディレクター登場【Cパート】
「まあ、いいんじゃないの。
雨先生のキャラとは少し違うけど。」
ファクス送信から三日後、神山はイレブンキーの会議室で四体のキャラのラフ絵を並べ、いつもの調子で発言した。
いつもと違っていたのは神山の隣りに尾上という若めの男性がいた事だ。
「ありがとうございます。
旧キャラとの寄せは外注の原画マンにお願いする事になりますね。
現路さんからはクリーンナップされた色付きのイラストが届いて終わりです。」
窓野は、現路のこれからの予定を手短に話した。
「あの、それでこちらの方は?」
羽田が神山に、尾上の説明を求めた。
「ああ、そうだった、そうだった。
僕は新規のラインを立ち上げる事になってね、このラインのディレクターを尾上にバトンタッチしようと思ってるんだよ。」
「尾上です。
よろしくお願いします。」
エラと頬骨が特徴の七三分けの尾上は挨拶した。
緊張しているのか、やや仏頂面に見える。
「私、イレブンキーの社長の羽田です。
よろしくお願いします。
――こちらは開発ディレクターの窓野です。」
「よろしくお願いします。」
名刺交換が首尾よく行われる。
その後、ミーティングの定例化についての話が出、木曜の十三時からと決まった。
成果物の提出でバタバタする月曜と金曜を避けられたのは、現場としてはありがたい。
「次の納品物は何になりますか?」
神山が打ち合わせの終わり掛けに質問してきた。
「そうですね‥‥。
現路さんの本チャンのキャラか、旧キャラの衣装案辺りかなと思っています。
それと、近々音楽の発注資料を作ろうかと。」
「音楽は昔の映画っぽいのがいいなぁ。」
神山が希望を述べた。
「わかりました。
家に映画音楽のサントラがあるんで、それを参考にします。」
メモ魔の窓野が頂いた希望をノートに書き込む。
「おっと、そろそろ次の打ち合わせに行かないと。
――では、今日はこの辺で。」
神山はそう言うと立ち上がる。
一拍遅れて尾上も立ち上がる。
「尾上さんは今までどんなゲームに関わられたんですか?」
羽田が作り笑いを浮かべて尋ねる。
尾上は関わったゲームで代表作と言えるものを三つ答えた。
どれも皆、硬派なゲームばかりだ。
「じゃあ、乙女ゲームは初めてでいらっしゃるんですね?」
羽田の質問に、一拍間を置いた尾上は意を決したように口を開く。
「私、乙女ゲーム、嫌いなんで。」
その発言は辺りの空気をピシッと凍らせた。
窓野の苦悩はまだまだ続きそうである。
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