表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は悪役令嬢の出るゲームの続編を作っていました  作者: 鳩野高嗣
第三章 新ディレクター登場
7/40

新ディレクター登場【Aパート】

これはフィクションとしておきます。

仮に現実で似た事があったとしてもフィクションとしてお読みください。

「ホントはあたし、()ける気はなかったんだよねぇ。」


 現路(うつつじ)ココナの打ち合わせ第一声がそれだった。

 現路はヒョウ柄のジャケットに黒のスカートという()()ちで、濃い目のメイクの肉付きのいい三十路(みそじ)手前の女性だった。


「あの、それではどうして、このお話を?」


 窓野(まどの)が恐る恐る(たず)ねた。


「連載で徹夜続きでウトウトしてた時に羽田(はねだ)さんから電話が来て、相槌しているうちに請ける事になっちゃったのよね。

 ――まあ、新キャラ三人が軍人、科学者、スパイって私的萌え要素って事もあったけど。」


 これは『羽田さん、グッジョブ』なのかどうか、雲行きが怪しくなってきた。


「では、さっそく始めたいと思いますが、企画書は目を通されましたか?」


 窓野は話を先に進めた。

 しかし現路は、


「読んでない。必要ないし。

 だって、あたしはキャラデザすればいいだけだから。

 この打ち合わせでキャライメージだけもらえればいいし。」


 と、堂々と答えた。

 合理的と言えば合理的だが、無礼と言えば無礼な話である。


(‥‥これは聞いてた以上に気難しいぞ。

 直木さん、逃げたな、今日。)


 窓野はこの打ち合わせをドタキャンした直木の強い意志を感じ取った。

 きっと過去に何かトラブルでもあったのだろう。


「わかりました。

 じゃあ、新キャラが旧キャラにどう絡むかを説明しますんで。」


 窓野は企画書にあるストーリーを簡略化して説明した。


 ● ● ●


「――ここまでで何かご質問とかありますか?」


 窓野の問い掛けに、今まで沈黙していた千倉(ちくら)が、


「ライバルの悪役の女の子たちは新キャラを奪うんですか?」


 と質問を投げ掛けてきた。


「あの子たちは貴族の子息たちだけを狙いますから新キャラは奪いません。

 まあ、革命軍側と中立についた場合にはストーリー上、絡みますが。」


 窓野は想定内の質問に、さっと答えた。


「まずドイツ軍人のヴォルフガング少佐なんだけど、どんなイメージ?」


 現路がコーヒーをすすりながら(たず)ねてきた。


「企画側としては背が高くて武骨なイメージ、それと軍服は一九三七年当時の陸軍のもの。

 特にそれ以外、自分からはありませんが、千倉さんからは何かありますか?」


「金髪のオールバックで、前髪がチョロリと垂れてるイメージかなぁ。」


「羽田さん、何かありますか?」


「声のイメージは西空(さいくう)尋樹(ひろき)!」


 羽田はギャランティ交渉には無類の力を発揮するが、ゲーム本編にはあまり役に立たなかった。


「‥‥え、えーと、それはキャスティング会社の方にお願いします。

 ――じゃあ、次にジークフリードですが、主人公より年下の天才少年という設定です。

 それでいて今回のラスボス的な存在だったりします。」


「天才と言ったら眼鏡よ眼鏡!」


 眼鏡男子萌えの羽田が真っ先に食いついた。


「でも、子どもに眼鏡掛けさせると『のび太くん』になっちゃうから萌えのシナリオが書きにくいです。

 眼鏡男子にするなら年齢を上げさせてください。」


 千倉がシナリオライターの見地から提案した。


「じゃあ、主人公が十七歳なので十六歳ならどうでしょう?」


 窓野が折衷案を提示した。


「研究分野はどんな設定?」


 現路が質問をしてきた。


「軍事と遺伝子工学関連ですね。」


「遺伝子工学?」


 現路と千倉がユニゾンで窓野に聞き返した。


「前作のファンブックに、舞台となってる架空の島国の産業の一つに遺伝子産業とあったので。

 第二次大戦頃の時代設定としては明らかにおかしいのですが、そこはツッコミ所として美味しいので活かしたいんですよね。」


「じゃあ、遺伝子操作で作った植物を持っていたり?」


 現路が真顔で質問する。


「まあ、作ってるかもしれませんが、『対面』には持たせません。

 いろんな場面に出てくるので汎用的に使えないと困りますからね。」


 対面とは、キャラクターの会話用グラフィックの事で、メーカーによっては『立ち絵』『立ちグラ』などとも呼ばれるが、イレブンキーでは『対面』と呼んでいた。


「それから世間知らず。

 植物もバラという名前は知らないで学名で呼んだりとか。」


 千倉がシナリオで使えそうな提案を出してくる。


「どこか浮世離れしているのはいいですね。

 神にも悪魔にもなれますが、決して人間にはなれないような。」


 窓野がジークフリードの方向性を固める。



 その後、科学者キャラクターについてのディスカッションはシナリオの本筋に絡むこともあって、大いに盛り上がった。

 しかし、最後のソ連のスパイキャラクターに話題が移ると――


「キラルですが、ソ連でスパイ要請員として育った青年です。

 今のところ、それ以外の設定はありません。」


 窓野の短い説明が終わると沈黙が会議室を包んだ。


「‥‥どんなイメージがある?」


 羽田が尋ねてきた。


「色が白いとか‥‥。」


 千倉もイメージが湧かないようだ。


「じゃあ、他のキャラと被らないように銀髪にしましょうか。」


 窓野が必死にイメージを膨らます。

 しかし、そこまでだった。

 会議室の使用時間がいっぱいとなり、キラルは現路にお任せという形でお開きとなった。


(投げっ放しになったけど、大丈夫かな‥‥?)


 窓野に一抹の不安が残った。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 気難しい人と面倒くさい人よりも、羽田のとんちんかんぷりが笑えていい。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ