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俺は悪役令嬢の出るゲームの続編を作っていました  作者: 鳩野高嗣
第二章 未知数の戦力ばかり
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未知数の戦力ばかり【Bパート】

「ちょっと会議室にいい?」


 原案書に続き、企画書もOKを神山から頂き、作業は仕様書の段階に移っていた。

 そのタイミングで羽田が窓野に声を掛けてきた。


「あ、はい。」


 ● ● ●


「えっ、社内でシステムデザインが作れなくなったんですか?」


 システムデザインとは、ゲームのユーザーインターフェースが絡むデザインである。

 例えば、自分のネームを入力する画面とか、画面に現れる選択肢などといったものだ。


 窓野はシステムデザインがどちらかと言えば苦手だったので、社内のデザイナーと打ち合わせをしてお任せで作ってもらう事が多かった。


「今、いろいろ仕事を入れちゃってるでしょ。

 それに加えて山下くんのラインも走らせたくて。」


 山下は小説家だが、イレブンキーの企画部に所属のゲームデザイナーでもある。

 小説家としては有能だが、ゲームデザイナーとしては疑問符が付くというのが大方の企画部員の評価であるが、羽田だけは彼を高く買っていた。

 小説家としてのネームバリューがあるので、そこそこ売れるというのがその大きな理由だ。


 一方の山下はマネージメント能力に乏しい為、会社員として給料という形でギャランティをもらう事で確定申告をしなくて済むといったメリットがあった。一種ウィンウィンの関係である。


「それこそ外部のデザイナーに頼んだらどうですか?

 こっちの方が先にマスターアップなんですし。」


 窓野はダメ元で羽田に意見してみたが――


「山下さん、妥協を許さないでしょう?

 外注デザイナーだと逃げられちゃうのよ。」


 案の定、経験則で反撃された。


「しかし、なんでまた、このラインが埋まってる時期に山下さんはゲームデザインを‥‥?」


「さあ?」


 知らないのかよと窓野はツッコミたくなったが、そこは冷静に、


「じゃあ、せめて月極(つきぎめ)でお願いします。」


 と頼んだ。


 外注の場合、月極拘束と単価という二つの発注方法がある。

 月極拘束は一ヶ月単位の契約なので多少発注期日が遅れても大丈夫だが、単価となると非常にシビアで、発注納期は絶対に死守しなくてはならない。

 ただでさえ、一人のプランナーが抱える仕事量としてはキャパシティオーバー気味なのに、全画面分のシステムデザインの配置指定とイメージ資料を発注納期ありで揃えるのは至難の業だ。


「それもダメなんだよねぇ。

 単価じゃないと足が出ちゃうし。」


 交渉の余地なし。

 会議室へ呼ばれたのは、ただの報告に他ならなかった。


「‥‥わかりました。

 それで、発注先はもう決まってるんですか?」


「それはもう、直木さんにお願いしているから。」


 あんた、本当に他人(ひと)任せだなとツッコミたくなったが、言葉を呑み込む窓野。


「ああ、それからシナリオ打ち、明日になったから。」


 羽田は平気で事後報告をする。

 ちなみに『シナリオ打ち』とはシナリオの打ち合わせの略である。


「えっ、来週じゃなかったでしたっけ?」


「来週は会議室、まとまった時間取れないから。」


「でも、予約入れてましたよね?」


「ああ、その時間、山下くんが使いたいって言って来て。」


 裏で『イレブンキーの天皇陛下』と言われているだけあり、山下の発言は絶対的だった。


「‥‥そうなんですね。

 決まっちゃった事なら仕方ないですけど。」


 羽田と打ち合わせをする度に自分の仕事が格段に増え、且つ、早まる一方の窓野は辟易(へきえき)していた。


「それから、今日はちゃんと帰ること。

 相当におうから。」


「仕方ないじゃないっスか、仕事がぎゅう詰めなんですよ。

 これから背景原図やらイベント絵のコンテも描かないといけませんし。

 それに更にシステムデザインの設計図が加わったんじゃ帰れないですよ。」


 明らかに抱え込み過ぎの状態だった。

 これには原図も絵コンテも手を抜かない事が災いしていた。

 それらの仕事に対して、もっと手を抜けと言われた事はある。

 しかし、実際に手を抜くと、上がってくる背景や原画も手を抜かれて上がってくるので、リテイクを防ぐ意味でも(りき)を入れて描く以外、手段はなかった。


「千倉さんは女性なんだから、体臭くらい気を遣って。」


「‥‥ういっス。」


 くさいかどうかは自分ではわからないが、プロジェクトが走ってすぐ修羅場で泊まり込み。

 これでくさくならない訳がなかった。


(まあ、帰れる口実が出来たと思おう。)


 窓野は気持ちを切り替えた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次々に襲い掛かってくる試練が面白いですね。
[良い点] 体臭が出てくるラノベというのもまた新鮮ですね。
[良い点] 体臭が出てくるゲーム業界小説は少ないので、リアルな感じがしていい。
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