未知数の戦力ばかり【Aパート】
これはフィクションとしておきます。
仮に現実で似た事があったとしてもフィクションとしてお読みください。
「ツナミさん用の資料の初稿が出来たんですけど、見てもらえますか?」
窓野はプリントアウトした企画書とプロットを羽田紳子に渡した。
有限会社イレブンキーには企画部という部署はあるが、企画部長がいない。
その為、社長の羽田が企画部長の代わりを務めていた。
これが、作られるゲームが乙女ゲームに偏っている要因の一つでもあった。
「絵がないとわからないわよ、たぶん。」
「一週間で企画原案書とプロットってだけでもかなり無茶なペースですよ?
企画書と言ってもまだ原案書ですし、それに続編ですから絵は想像出来るんじゃないですかね。」
「まあ、そうなんだけど。
ところで『宿命分岐』のシステムは決まった?」
ハッキリ言ってそのシステム説明は企画原案書に書いてある。
しかし、羽田は文字だけの原案書はめくっているだけで、ほとんど読んでいなかった。
まあ、それは毎度の事なので窓野もツッコミを省くようになっていた。
「各章の終わりに『ジャンクション』を入れる事にしました。
現状のルートから、そこに留まる事を含めて三つのルートを選べるんです。」
「ふうーん、普通ね。
もっとこう、バァーッとしたのをイメージしてたんだけど。」
どんなイメージだ。
「はあ、すいません。
でも、書き手によっちゃ、いいものになると思いますよ。
矛盾潰しが大変ですけど。
――ところで、ライターは決まってるんですか?」
「全然。
あとで直木さんに相談してみようかしら。」
社長業が忙しいのはわからなくもないが、この一週間、羽田は窓野のラインの仕事を放置していた。
シナリオライター探しの件も直木に丸投げする気満々である。
「けどまあ、絵は前作の雨先生に描いてもらえるのはありがたいですね。
新キャラも三人追加しましたから。」
雨先生とは、人気漫画家の雨佐緒里だ。
「まあねぇ。」
● ● ●
「えっ、雨先生がNGですか?」
企画原案書とプロットをメールで送った翌々日に行われたツナミの神山との打ち合わせの際、窓野、羽田、直木はユニゾンした。
「前作は出版社を通さないで雨先生に直接捻じ込んだらしくてさ、かなりそこのお偉いさんがおカンムリだったんだよ。
ウチも他のラインでお世話になってる所だし、関係を悪くしたくないんだよねぇ。」
前作のディレクターの強引なやり方のおかげでウリの一つが早々に潰れた。
「じゃあ、代わりの人を探さないと。
直木さんの知り合いでいい人いない?」
羽田はここでも直木の人脈に頼りきりだ。
「この耽美路線に合うっちゃ合う人はいますが‥‥気難しい人ですよ?」
「連絡先、後で教えて。
連絡はこっちから入れるから。」
「わかりました。」
直木は自分がやらなくてはいけない事をメモにとった。
「ああ、肝心のゲームの企画書なんだけど、コレでいきましょう。
まともなゲームになりそうだからね。」
神山はお茶をすすりながらゲームに話を戻した。
「ありがとうございます。」
窓野は頭を下げる。
「プロットも面白いねぇ。
突飛なのもあってバカバカしいのもあるけど、それくらいパンチがないと小さくまとまっちゃう。
これなら男性にも遊べる乙女ゲーになりそうだよ。
宿命分岐もいいねえ。
‥‥ちょっとシナリオバグ起こしそうだけど、大丈夫?」
「ルート別に短いプロットを自分の方で起こすんで、そこら辺は大丈夫かと。」
大丈夫かと訊かれてダメですというプランナーはまずいないし、失格だ。
自信の有無とは無関係に、仕事を取る為の返答を窓野はした。
「窓野に任せておけば手堅いかと。
宿命分岐のシステム、私もいいと思ったんですよ。」
羽田が『奥さまは魔女』に登場するダーリンの上司のラリーのように掌を返した。
「シナリオライターはもう決めたの?」
神山は何気にライターの話を切り出してくれた。
「それは直木さんの方に。」
何から何まで丸投げの羽田。
急に振られた直木は目を丸くしたが、そこは歩く人材バンクの異名を持つ男。
「このゲームに合うのは‥‥やっぱ千倉碧さんかなぁ。
パソゲーの『爆発恋鎖』って乙女ゲームをやられた方なんですけど。」
この状況で、そんなゲーム知らないとは言えない窓野と羽田。
「女性ですか?」
窓野が直木に尋ねる。
「ええ、女性です、女性です。」
「どんな方ですか?」
「ええーと‥‥一言で言うとめんどくさい方。」
「窓野さん、任せた。」
羽田は直木の説明で千倉関連は窓野に丸投げを決意した。
気難しいキャラクターデザイナーとめんどくさいシナリオライター‥‥。
前途多難なマッチメイクをされた窓野は、ふと遠い目をした。
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