ノイズ除去【Bパート】
「いやあ、今回、時間やら何やらの関係でフリーの方にお願いしたんですよ。
で、どうしても粗切りで納品するしかないって事で‥‥。」
ツーエンドスリーの台詞データを担当した寅山が電話で言い訳をする。
時間がタイトなのはともかく、『何やら』って何だ?
「とにかくノイズが乗っている部分を書いたテキストをメールで送りますんでお願いしますね。」
「‥‥それが‥‥。」
寅山は言いにくそうに何かを伝えようとしていた。
「どうかされたんですか?」
「いつもは単価百円から百五十円なんですが、このラインでは羽田さんが五十円としてきたので出来るのはここまでなんです。
これでも、うちとしてはかなりのサービスなんですよ?」
(原因はウチかぁーっ!)
判明した『何やら』に窓野はまた頭を抱えた。
「わかりました‥‥。
そういう事でしたらここまでで結構です。
ありがとうございました。」
窓野は丁寧に電話を切ると、つかつかと羽田の机へ向かう。
「羽田さん、なんでツーエンドスリーさんの額面、削ったんですか?
ヴォイスデータ、ノイズ乗りまくりで使えないですよ。」
「ああ、その件なんだけど、山下くんのラインが想定外にお金使うのよ。」
そこまで言われれば察しがつく。
そして、その後の展開もまた然り。
● ● ●
窓野はその日の業務を終えた後、不二に借りた社内で最高レベルのヘッドホンを耳に当て、クールエディットプロでプチノイズやリップノイズを1ファイルずつ除去していった。
(今夜も泊まるしかないか‥‥。)
窓野の闘いはまだ続く。
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