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俺は悪役令嬢の出るゲームの続編を作っていました  作者: 鳩野高嗣
第十二章 ノイズ除去
33/40

ノイズ除去【Aパート】

これはフィクションとしておきます。

仮に現実で似た事があったとしてもフィクションとしてお読みください。

「大丈夫ですか?」


 発熱でだるそうな窓野(まどの)に、音声収録に来ていた(はく)博美(ひろみ)が紙コップにペットボトルの茶を()いで差し出した。


「ありがとうございます。」


「いえいえ、私も風邪で一日収録をすっトバシましたからお互い様ですよ。」


 白は明るくフランクに語った。

 配役のオーグスタに合わせた訳ではないだろうが、ダークなレディーススーツがイメージに被さる。


(俺は体調不良でも仕事、休んでないんだけどなぁ‥‥。

 ――まあ、役者は声が出なけりゃ仕事にならないんだろうけど。)


 窓野は心の中でそうつぶやきながら紙コップの伊右衛門という日本茶を飲んだ。

 声優への差し入れは全てキャスティング会社が(おこな)っている。

 飲み物にはミネラルウォーターやお茶、ジュースなどはあっても烏龍茶はない。

 これは烏龍茶が喉の脂を流してしまい、声の潤いが出なくなるという声優が多い為だが、中にはそんな事は気にしないという方もいたり(ベテランの方に多い)と、医学的な真偽は定かでない。


「ところで、悪役令嬢の他の二人は誰がやっているんですか?」


「ヴェルミーナは桑鳥(くわとり)宝子(ほうこ)さんで、マリリンは鍵宮(かぎみや)理絵(りえ)さんです。

 ああ、お二人はもう既に収録が終わってますよ。」


「ああ、宝子ちゃんと理絵ちゃんかぁ。

 ――前作に比べて毒っ気がなくなったけど‥‥少し芝居とアドリブで足した方がいい?」


「その辺は色々と政治的な事情がありまして、本のままでお願いします。

 ‥‥あはは。」


「うん、わかった。」


 慣れてくると徐々に白から丁寧語がなくなってきた。

 そんな中、尾上(おのうえ)が控室に入ってきた。


「スタジオの準備が整いましたんで、そろそろどうぞ。」


「はーい♪」


 奔放な人だ。

 しかし、以前演じた役を憶えているのは素晴らしい。


 テレビのように何週間も通い詰める仕事とは違い、ゲームの場合は一日限りの仕事だ。

 自分が演じた役を忘れてしまうという役者も実のところ多い。

 そのような場合は前作で収録した台詞(せりふ)をいくつか聴いてもらい、その感じを掴み直して頂くのが一般的な対処法だ。


 ● ● ●


「お疲れ様でしたぁ。」


 白の収録が持ち時間ギリギリで終わった。

 彼女が演じたオーグスタは攻略対象キャラクターではないが、それなりに台詞(せりふ)数が多い。

 時間いっぱいになったのはリテイクが多かったという訳ではない。

 男性の役者に比べて女性の役者は喉が疲れやすい人が多く、その為、休憩時間を多く設ける必要があるからだ。


「では、失礼しまーす。」


 次の仕事があるのだろう、白は一礼するとそそくさと現場を後にした。


「終わりましたね、最後の収録。お疲れ様でした。」


 窓野はキュー出しをしてくれた尾上に(ねぎら)いの言葉を掛けた。


「お疲れ様です。

 今、データをロムにしてるんで、もう少しお待ちください。」


「はい。」


 ● ● ●


 DVDロムに焼かれたデータは南池袋にある音楽会社ツーエンドスリーに届けられ、そこで音量レベルを統一にした後、『音切り』、又は『音声切り』と呼ばれる一つ一つの音声データに切り分ける作業に入る。


 音切りされたデータはFТPサーバにアップされる。

 そこからイレブンキーのスタッフでチェックを行う訳だが、チェック内容は主に以下の二つだ。

 ■音声データがファイルネームの台詞(せりふ)と合っているか。

 ■データにノイズが乗っていないか。


 大抵の場合、音声を切るのと同時にリップノイズやプチノイズの類は除去されている。

 されている。

 されている‥‥。

 ‥‥はずなのだが。


「(乗りまくりやん!)」


 窓野はあまりにも雑な仕事っぷりに頭を抱えた。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 次から次に困難が襲い掛かってくる展開が面白い。
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