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俺は悪役令嬢の出るゲームの続編を作っていました  作者: 鳩野高嗣
第十一章 サインをもらって叱られて
30/40

サインをもらって叱られて【Aパート】

これはフィクションとしておきます。

仮に現実で似た事があったとしてもフィクションとしてお読みください。

「えっ‥‥?」


 音声収録二日目、窓野(まどの)はツナミの音声収録の控室(ひかえしつ)尾上(おのうえ)の台詞に驚きを隠せなかった。


「ですから、キュー出しは私がやる事になりました。」


「‥‥そうなんですね、よろしくお願いします。

 ――ああ、それから攻略対象の時だけですが、ライターの千倉(ちくら)さんにも立ち会って頂ける事になりました。」


 よくよく考えてみると、千倉が尾上と対面するのは今日が初めてだ。

 窓野の横に立っていた千倉は、


「初めまして、シナリオライターの千倉です。」


 そう言うとスッと名刺を差し出した。


「ツナミの尾上です。」


 尾上もスマートに名刺を差し出した。


頂戴(ちょうだい)致します。」


 一連の儀式が終わった。


「ご存知でしょうが、今日は十時半から三時までがヴォルフガング役の律田(りつだ)さん、三時から七時半までがジークフリード役の福川(ふくかわ)さんです。

 ――では、台本をお渡しします。」


 尾上が二人に台本を渡した。

 攻略対象キャラクターの台本はツナミ側が用意していたので、キャスティング事務所以外には配られていない。

 こちらにも事前に渡してくれても良さそうなものだが、ツナミの制作物は門外不出なのか、失くしたりした時の事を考えての事なのか、その辺りは不明だがデベロッパーにはとにかく渡さない。


「ありがとうございます。」


 受け取った二人はユニゾンで礼を言った。


 ● ● ●


「どうも、律田(りつだ)健四郎(けんしろう)です。」


 収録十分前になって律田はキャスティング担当の八神(やがみ)に連れられて現れた。

 低音ヴォイスの割には背はさほど高くない。

 ネットのプロフィール欄には百七十センチとあるが、何故(なぜ)か百六十九センチの窓野よりも低い。


「開発ディレクターの窓野です。よろしくお願いします。」


「はじめまして。」


 実のところ、律田との対面は初めてではない。

 『テブプリ』の三作で一緒に仕事をしていた。

 しかし、一年で何百人と仕事をする役者が、たかだか一兵卒の顔と名前など憶えている訳がない。

 ましてや髪も髭も伸び放題の状態だ、それで窓野と認識出来たらそれこそ奇跡であろう。

 窓野もその辺りは心得たものだった。


「今回は第二次大戦時に架空の島国にやってくる武骨なドイツ将校という役柄です。

 本を読まれていて何か疑問点などがありましたらお願いします。」


 窓野が律田に質問を投げ掛けた。

 十分程度の打ち合わせ時間では出てきた疑問点に答えるのがせいぜいだ。


「特にありません、大丈夫です。」


 律田は低音のいい声で凛と答えた。


「ありがとうございます。

 ヴォルフガングは主人公よりもだいぶ年上なので、そこだけ気をつけて演じてください。」


「年上、たしか二十八歳でしたよね。

 主人公は何歳なんですか?」


 薄い台本にする為にその辺りの下りをスッパリとカットしたのだから知らなくて当然だ。


「十七歳です。

 なので、ほぼ一回り年下ですね。」


「なるほど。

 ――ああ、それと‥‥。」


「はい。」


「‥‥今回は歌、ないですよね?」


 ツナミのラインではキャラクターに歌わせるゲームが当時多かった。

 歌がNGの役者である律田にも、窓野が以前担当していたゲーム『テーブルテニスの御曹司』シリーズでは「カラオケイベントですから上手く歌わなくてもいいんです」と理由を付けて強引に歌わせたという前科があった。

 律田が歌った事は業界関係者の間では、かなり話題になった程である。


「ええ、ないですないです、今回は。」


 窓野は苦笑いを浮かべ慌てて否定した。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 歌NGの声優がいるとは知らなかったので、興味をそそられた。
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