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俺は悪役令嬢の出るゲームの続編を作っていました  作者: 鳩野高嗣
第十章 音声収録スタート
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音声収録スタート【Bパート】

「ああ、その日、予定が入っていて立ち会えないです。」


 キンカンズの一件から十日後、受話器を通して窓野(まどの)()(まく)千倉(ちくら)の音声収録初日の立ち合いお断りの返答が響いた。


「そうですか‥‥。

 他の攻略対象キャラクターの立ち合いはいかがでしょうか?」


 ゲームの音声収録にはシナリオライターの立ち合いが望ましい。

 それはシナリオの修正作業が収録現場で発生する事が往々にしてあり、即、他の代案を提供しなければならない為だ。

 ゲームの場合、一時間いくらという時間拘束で声優のギャランティが決められるケースが大部分だ。

 なので、もたもた考えていては時間が超過してしまう。

 また、収録は双子キャラでユニゾン必須というような例外を除けば、基本的に一人ずつ行う。

 その関係上、次の声優の持ち時間に食い込むというのも絶対に避けなければならない。


「他の日は――まあ、大丈夫かと。」


「わかりました、よろしくお願いします。

 他の有象無象(うぞうむぞう)のキャラは自分の方で何とかしますんで。」


 ダインリーベ(ツヴァイ)は主人公以外、全て喋らせるフルヴォイスゲームだ。

 フルヴォイスは何かと大変だ。

 音声収録だけで何週間も時間を割かなければならないし、収録ミスが生じた場合のフォローは神経をかなり()り減らす。


「窓野さん、大変でしょうがよろしく頼みます。」


 そう言って千倉は電話を切った。


 ● ● ●


 二〇〇五年六月二十日。

 音声収録初日、窓野は一人でツナミの音声収録スタジオを訪れた。


「あれ、一人ですか?」


 尾上(おのうえ)(たず)ねてきた。


「はい。

 今日、どうしても千倉(ちくら)さんのスケジュールが合わなくて。」


「それはマズいなぁ。」


 尾上は苦虫を潰したような顔でつぶやいた。


「どうかされたんですか?」


「実はこのライン、音響監督を立ててないんですよ。

 それで、キュー出しを窓野さんにお願いしようかと思ってたんですよ。」


 思っているだけでは伝わらない。


「キュー出しなんて、自分、やった事ないですよ。

 それに、その場でシナリオの修正とか出たら考えなくてはいけませんし。」


「ですよね。

 だから困ってるんです。

 ――とにかく、今日だけは音響監督をお願いします。

 明日からは何とかするんで。」


「‥‥わかりました。」


 窓野は押し切られる形で承諾した。


 ● ● ●


 音声収録のトップバッターはアイジャック役の孫安(まごやす)猛人(たけひと)だった。


「よろしくお願いします、孫安です。」


 孫安は着帽のままお辞儀をして入ってきた。


「よろしくお願いします、ディレクターの尾上です。」


 尾上が孫安に名刺を渡すと、孫安も名刺を渡す。

 名刺を持ち歩いている声優は実のところ少ない。

 仕事を取るのに必死なフリーランスと、独立して会社を持っている人、それに名刺を持つのが社会人の常識と考える(むかし)気質(かたぎ)な人くらいではなかろうか。


「今回、開発ディレクターをしています、イレブンキーの窓野です。」


 窓野も名刺交換をした。



 窓野は孫安と軽く打ち合わせをした後、音声収録に入った。

 孫安は通称、金魚鉢と呼ばれている分厚いガラス窓の個室に入り、淡々とアイジャックの台詞(センテンス)を演じていった。


 個人の技量にもよるが、一時間あたりリテイク込みで百以上の音声が収録出来れば及第点と呼べるレベルだ。

 孫安はそれを楽々とクリアし、プロの実力というものを見せてくれた。

 ただ、この日は五時間拘束という長丁場。あのいい声が維持出来るのか心配だ。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] どこまでも窓野に頼りっきりの低予算っぷりが笑える。
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