銀入りのスプレー【Bパート】
「はい、これ使って。」
深夜、追加分岐のシナリオを書いている窓野の机に、出社してきた樫谷が銀入りの消臭スプレー缶をトンと置いた。
「トイレにも同じの置いといたから。」
(クレイマーはこの人かーっ!)
「自分、そんなに匂います?」
「――察してくれ。」
「‥‥‥‥‥‥。」
● ● ●
午前四時、ひと通りの追加作業が終わった。
ただ、既に睡魔に浸食されつつあった大脳に鞭打った仕事だけに精度が不安だ。
故に、ひと眠りしてから再確認を掛けようと窓野は考えた。
(と、その前に‥‥。)
窓野は男子トイレへ向かった。
窓野が大便器で用を足そうと尻を便座に置こうとした。
便座が上がっている事に気付かずに。
チャポン。
(冷たい‥‥。
ああ、俺、相当疲れてるわ。
――今日は絶対に帰ろう。)
ていうか、誰だよ、便座を上げっぱなしにしたヤツは?
● ● ●
午前七時四十五分、窓野の目が覚める。
彼の睡眠時間は脳を休める絶対的な三時間に、千歩当たり十五分の体力回復時間をプラスしたものが基本的な睡眠時間となっていた。
(さてと‥‥。)
寝床から起きた窓野は机の上のマグカップを手にすると、コーヒーを汲みに流しへ向かった。
すると、男子トイレから出てくる樫谷と出くわす。
恰好からして、これから帰宅するところであろう。
「お疲れ様でした。」
窓野が挨拶する。
「お疲れー。」
樫谷はぶっきらぼうにそう返すと、タイムカードを押して帰って行った。
「――あれ、お湯、切れとるわ。」
窓野は独り言を言いつつポットの電源を外し、蓋を開け、水道の蛇口を捻る。
待つ事、約一分、ポットが満タンになる。
「よっしゃ、セット、と。」
あとはお湯が沸くまで、じっと我慢の子である。
窓野は取り敢えず男子トイレへ向かった。
「あ‥‥。」
すると、大便器の便座が上がっていた。
「便座の犯人もあの人かーっ!」
窓野は誰もいないイレブンキーで声を上げた。
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