スクリプター投入【Bパート】
「えっ、三人ですか?」
窓野は羽田から提示されたスクリプターの人数に唖然とした。
「思ったよりシナリオとキャラデザの請求額が高かったのと、これから売れっ子の声優さんの拘束時間のギャラを考えると、これが限界。」
「でも、社員の人件費に比べると、外注ばかりのこのラインはかなり予算が浮くと思うんですけど。
――そんなに低予算だったんですか?」
「‥‥うーん、実は山下くんのライン、時間が掛かっちゃってさぁ。
そっちに、すこーしばかり回したんだよねぇ。」
「ちょっ、こっちに非はないじゃないですかぁ。」
「それはそうだけど、困った時はお互い様。
会社は全体通して一つの生き物なんだから。」
経営者としては間違った事を言っていない。
しかし、ハナから少ないと言われていた開発費を削られるのは、ラインを回している開発ディレクターから見れば看過出来る事ではなかった。
「三人で二ヶ月ずつ‥‥ですか。
音声収録、これからなんですけど、まあ、ギリなんとかいけっかなぁ‥‥。」
「えーと‥‥うち二人は一ヶ月半契約なんだよねぇ。」
羽田の台詞は窓野に絶望感を押し寄せた。
「え‥‥マジっスか?」
「ほら、いざって時は直木さん呼んでスクリプト手伝ってもらえばいいし。」
羽田のあっけらかんとした提案は絶望の波を増幅させるだけだった。
● ● ●
「やる事はわかりました。
――で、スクリプトの締めはいつなんですか?」
後日、直木に呼ばれたスクリプターの一人、伊佐丸が尋ねた。
「二ヶ月後です。
あと二人、人員が追加されますが、彼らは一ヶ月半の期間だけです。」
窓野が答える。
「‥‥で、本当の締めはいつなんですか?
まだ音声、録ってないんですよね?」
伊佐丸は大きめの眼鏡のブリッジを持ち上げて尋ねた。
「ええ、本当の締めが二ヶ月後なんですよ。」
直木が答えた。
「あははははは! 出来る訳ねーじゃん!」
――ですよね。
窓野にも直木にも反応は予測出来ていた。
が、実際に言われると結構くるモノがある。
「シナリオが上がり次第、台本、印刷所に回します。
通常は二週間前ですが、今回は特別に十日前に各声優事務所に送って二週間で収録完了。
録ったそばから音楽会社にデータをロムで渡して音量合わせと音声切り、リップノイズ取り。
完成した音声データはキャラごとにFTPにアップしてもらう予定です。」
窓野が伊佐丸に逃げられないように必死に説明する。
しばらく腕を組んで考える伊佐丸。
「言っとくけど、最低限の芝居付けしか出来ないから。」
「それでもお願いします!」
窓野も直木も伊佐丸に頭を下げた。
「――で、どこで作業すればいいの?」
伊佐丸は席を立つと二人に尋ねた。
● ● ●
そんなやり取りをあと二回続け、なんとかスクリプターの人数を確保。
時間が空いている時には直木も羽田に用意されたパソコンでスクリプトを打った。
遂にゲームのキャラクターが音声なしで動き始めた。
そんな中、ツナミの尾上から電話が窓野に掛かってきた。
「はい、お電話代わりました、窓野です。」
「収録台本の件ですけど、攻略対象キャラ九名の物だけアニメで使うようなタイプの台本にしたいんで、薄くなるようにシナリオを削ってください。」
「へっ?」
ゲームの台本はキャラクター別に作るのが基本だ。
特定のキャラクターが登場するシナリオだけ抜粋したものがA4のコピー用紙に印刷され、紙の束として各声優に渡される。
だから主要キャラクターを演じる声優には電話帳のように分厚い束が、何束にもなって渡される事になる。
それをアニメの台本クラスの薄さにするとなると、人力でそのキャラクターの台詞の流れが最低限わかるまでに人力で抜粋しなければならない。
更にシチュエーションを伝える為のト書きも必要となる。
はっきり言って労働面に於いては百害あって一利なしだ。
「なんでまた台本風にするんですか?」
「台本を声優のサイン入りでプレゼントさせたいと思ったんで。」
思いつきかい!
とは言え、今回はテレビコマーシャルがないので話題作りは必要だ。
前作が駄作だの、ネタゲーだのと悪評が出回っては、メーカーとしてもその続編に広告費を潤沢に掛ける訳がない。
尾上も苦心の末にアイディアを出したのだろう、それはわかる。
「薄くするのは人力作業になるんで、その分、時間が掛かります。
最悪、事務所に台本のお渡しが収録一週間前になるかもしれませんが、宜しいでしょうか?」
「‥‥わかりました、一週間前で交渉します。
その代わり、納期は死守でお願いします。」
「了解です。」
尾上との電話は終わったが、新たに余計な作業が舞い込んだ。
それはここ数日間の窓野の泊まり込みが確定した瞬間でもあった。
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