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俺は悪役令嬢の出るゲームの続編を作っていました  作者: 鳩野高嗣
第八章 スクリプター投入
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スクリプター投入【Aパート】

これはフィクションとしておきます。

仮に現実で似た事があったとしてもフィクションとしてお読みください。

「ずいぶん伸びましたね。」


 定例会議の席でツナミのディレクター、尾上(おのうえ)窓野(まどの)の顔中の(ひげ)を見て言った。

 幾多の難関を根性と奇策で乗り越え、気付いてみればプロジェクト開始から約半年が過ぎていた。


「はい、ちょっと泊まり込んでいたもので‥‥。」


 窓野は頬をぽりぽりと掻きながら答えた。

 窓野の髭は濃く、三日剃らないと電気髭剃り器では剃れなくなる。

 結果、三日泊まり込んだ時点で必然的に伸びまくる事が確定する。


「私はいつも『帰れ』って言ってるんですけどねぇ。」


 羽田(はねだ)が普段言った事もない台詞(せりふ)体裁(ていさい)を整える。


「銭湯行けばいいのに。」


 進行管理の直木(なおき)が口を挟む。


「風呂に入ったら眠くなって仕事にならないんで。」


「私は『徹夜はするな』って言ってるんですけどねぇ‥‥あはは。」


 今度は羽田の口から聞いた事のない台詞(せりふ)が飛び出した。


「徹夜はしてませんよ、少しは寝てます。」


「少しって?」


 尾上が間髪入れずに(たず)ねてきた。


「全盛期のピンクレディーくらいには。」


「全然寝てないのと一緒じゃん!」


 窓野の(たと)えが、世代的にその場で唯一わかる羽田がツッコミを入れた。


「‥‥そろそろ定例を始めましょうか。」


 直木がその場を仕切った。

 すると、尾上が口を開いた。


「まず、こちらから。

 タイトルが会議で決まりました。

 メインが『ダインリーベ(ツー)』、サブタイトルが『沽券(こけん)大義(たいぎ)と恋』です。」


「ダインリーベってドイツ語ですよね?

 (ツー)でいいんですか、ツヴァイじゃなくって?」


 窓野が質問した。


「実は、そこはまだ決めかねているところです。」


 決まってないじゃん、とイレブンキー側の三人が心の中でツッコんだ。


「ま、まあ、その辺は声優さん用の台本を作るまでに決まっていればいいんじゃないですか。」


 直木がその場を丸く収めた。


「それで、そちらの進捗の方はいかがですか?」


 尾上が自分に向けられていた矛先を変えるかのように質問を投げ掛けてきた。


「シナリオは矛盾潰しをしながら、現在は宿命分岐パートのシナリオを作っています。

 完成度は八十%といったところでしょうか。

 ただ、まだスクリプトが全く進んでいないので、ゲームが出来ない状況です。

 こちらは外部のスククリプターを至急見繕いますのでお待ちください。」


 窓野から事前に聴取した状況を直木が説明した。


 スクリプターとは、ゲームシナリオを元にキャラクターの台詞や動き、エフェクトなどを『スクリプト』と呼ばれる言語を入力して表示させたり、数値や分岐を構築する一種のプログラマーである。


 スクリプトの打てる企画者もいるが、窓野はデザイン畑出身なのでその能力はなかった。

 (ゆえ)に社内でそれが打てる企画者、プログラマーが空いていない場合、外部から呼んでくる以外にない。

 人月拘束で呼ぶ場合、シナリオがある程度出来上がった状態でないと予算をオーバーしてしまう。

 シナリオ、絵素材がほぼほぼ揃っているのにゲーム本編のアドベンチャーパートが今まで遊べなかったのはそういった事情からだった。

 直木が今回シナリオの進捗を報告したのは、そのアテンドを頼まれていた事に起因していた。


「今からスクリプターを?

 バランス調整、時間が掛かりますよね?

 間に合うんですか?」


 尾上は畳み掛けてきた。


「ああ、それなら、バランス調整しながらシナリオを書き進めていたんで、多分大丈夫じゃないかと。」


 窓野が話に割り込みを掛けた。


 プロットにはドリフターズ型とひょうきん族型が存在する。

 前者は徹底的に最初の段階で緻密な叩き台を作り、そこからは大きく崩さないタイプだ。

 後者は『なり』で作り進めて行きつつ、面白さを追加していくタイプである。

 総じて後者の作り方はプロットは早く提出出来るが、シナリオ作成とバランス調整には時間が掛かる。

 決してどちらが正しいという答えはないが、前者と後者のプロットの作り手はお互いのやり方を理解し得ないという特徴があった。


 窓野の場合は典型的な前者で、しかもプランナーとしてはザク型だ。

 事実、彼の序盤の活躍が功を奏し、短期間で低予算のプロジェクトをここまで支えてきた。


 しかし、スクリプトとデバッグが始まる頃から途端に彼の株価は下落する。

 スクリプトが打てず、ラインごとに異なるデバッグ管理ツールに対応出来ないというメカ音痴っぷりが露呈するからだ。


「信じていいんですね?」


 尾上が疑惑の目を向ける。


 最終的には通しプレイでバランスをいじる事になるが、今回はプロットの段階で既にアドベンチャーパートのバランスがある程度取られていたので、スクリプターの投入がギリギリでも成立する。

 そういった意味で、このプロジェクトは崖から崖へガラスのロープが張られた綱渡りラインと言えた。


「ええまあ、バランスに関しては。

 問題はキャラの演出付けがどこまで出来るか、ですね。」


 窓野はこの時点でまだ何人スクリプターが投入出来るのか知らなかった。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゲーム開発のうんちくが語られていて興味がそそられる。面白い。
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