俺もマシンも傷だらけだが【Bパート】
「どのくらいで終わりそう?」
翌朝、羽田が窓野に尋ねてきた。
「これだけに集中すれば、あと三徹って感じですね。
調整依頼が曖昧過ぎますし、それでいて誤字脱字チェックはされていない。
――適当過ぎですよ、尾上さんの仕事。」
窓野は修正内容を詳しく書いて千倉に戻そうかとも考えたが、それをやるくらいなら直した方が遥かに早い。
「ん~、じゃあ、やって。
電話はこの三日間、取らなくていいから。」
おいおい、あと三徹しろと?
「‥‥マジっスか。」
「マジマジ。」
羽田はそう答えると、そそくさと自分の席へと向かった。
● ● ●
一日目(事実上の二徹目)。
まだまだ大丈夫。
二日目(事実上の三徹目)。
頭痛がするし、頭が熱っぽい。
おまけに首の周りと背中が痒い。
しかし、どうにも耐え難いのは不快な状態になっている靴下だ。
窓野は靴下を脱ぎ、それによって得られる開放感に酔いしれる。
が、それも束の間、歩くと裸足がサンダルにくっついてはピタッという音を発して剥がれる不快感を味わった。
三日目(事実上の四徹目)。
起きているのか眠っているのか、よくわからない。
パソコン上の文字が刻々と打ち込まれている事から察して、多分起きているはずだ。
そして事件はこの三日目の深夜の一時半に起こった。
「ん‥‥?」
窓野は目に違和感を感じた。
景色が白っぽい。
(人間、疲れるとこうなるのか?)
などと思っていると、
「窓野さん、すぐにモニターとパソコン切って!」
この日、窓野と共に深夜の作業をしていたイレブンキーの副社長であり、羽田の夫でもある樫谷が慌てて叫んだ。
「え? あ、はい。」
セーブをしてから電源を切った。
よく見ると、社内の一角が窓野のモニターから吹き出す煙で真っ白になっていた。
偶然とは言え、樫谷がいて最悪の事態は避けられた訳だ。
「何日、稼働させ続けてんの?」
顎鬚を掻きながら樫谷が尋ねた。
「自分と同じですから丸四日っスね。」
「たまには休ませなけりゃダメだよ。」
「そう‥‥ですね。
機械は人間と違って無理が利きませんしね。」
「‥‥人間もだよ。」
ごもっともだ。
「どのくらい機械、休ませれば大丈夫そうっスか?」
「さあ? まあ二時間は休ませて様子を見て。」
「わかりました。
その間、自分も休みます。」
窓野は腕時計のタイマーを仕掛け、仮眠室へ向かう。
● ● ●
二時間後、窓野の腕時計が球速終了を告げる。
そして再起動。
モニター、パソコンとも異常なし。
窓野の身体もわずかの間に幾分か復調した。
(よし、やるか。)
いつの間にか、樫谷の姿はなかった。
おそらく、窓野が眠っている間に帰宅したのだろう。
窓野は朝の九時過ぎに作業を終え、尾上に修正したテキストファイルをメールで送った。
すると、途端に疲れがどっと押し寄せてきた。
(俺もマシンも傷だらけだが、ってヤツだな‥‥。)
窓野は出社してきた氷室に事情を話し、再び仮眠室に向かった。
イレブンキーの昼休みは十三時から一時間。
取り敢えず、十四時までは自分宛ての電話が来ても余程の緊急事態ではない限り取り次がれない‥‥はずだ。
おやすみなさい。
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