新規プロジェクト、始動す【Bパート】
「なんだ、これは‥‥?」
窓野は会社から借りたプレイステーション2用ソフト『ダインリーベ』を十五周した。
しかし、いずれもバッドエンド‥‥ライバルの悪役令嬢三人衆のいずれかに攻略対象であるいいトコのボンをかっ浚われていくという辛酸を舐めさせられ続けた。
「これをどないせえと‥‥。」
ゲームソフトと一緒に借りた攻略本――とは名ばかりの公式ファンブックには、細かい設定ばかり書かれており、攻略にはクソの役にも立たなかった。
「大体、媚薬って何だよ?」
攻略対象を奪っていく悪役令嬢三人衆もイラつくが、攻略対象である貴族のボンもどうかしている。
気に入らない選択肢を一つ選んだだけでツムジを曲げる度量の無さ。
ぶつぶつ言いながらも窓野は十六週目に突入した。
● ● ●
連休明け、窓野は女社長、羽田にクソゲ―を返却した。
羽田は開口一番、
「クリア出来た?」
「なんとかクリアはしましたけど、これ作ったプランナー、正気ですか?」
「ああ、もうツナミさんからはいなくなっちゃったみたいだよ。
詳しい事はプロデューサーの神山さんに訊いてみたら?
今日来るから。」
神山はツナミグループの中の一つ、ツナミエンタテインメントハポンの副社長だ。
「ええっ!? 今日来られるなんて聞いてないですよ。」
「言ってないもん。
窓野さんの出社するタイミングで、すぐ打ち合わせしたかったそうよ。」
嫌な予感が窓野の脊椎に走った。
(これは短期間・低予算プロジェクトだ‥‥。)
「どんなゲームにしたいか、要望を持ってくるんじゃないかしら。」
「それならそれでいいんですけど‥‥続編なんですよね?」
「うん。それは間違いないみたい。」
「なら、絶対に悪役令嬢三人衆を没落させるルートを作りたいですね。」
悪役令嬢三人衆の没落ルートが真っ先に決まった。
● ● ●
午後一時、神山が来社し、会議室に通された。
神山は髪をオールバックにした中年の紳士風の風貌だった。
と同時にゲームのサポーターとしてフリーの直木も現れた。
直木は羽田が召喚したのだろうが、窓野にはこれも寝耳に水だった。
「お久しぶりです。
――こちら、ツナミの神山さん。」
羽田が愛想よく神山を窓野に紹介した。
「こちら、ウチの窓野です。
乙女より乙女ゲームを理解しています。」
そんな事はないし、そんなリップサービスはいらない。
気の遣い方をどこか間違えているのだ、この人はと窓野は思う。
神山は窓野と名刺交換を終えるや否や、
「ゲームはやった?」
フランクに話しかけてきた。
「はい。やらせて頂きました。」
「クソゲ―だったでしょ?」
進退窮まらん質問を投げ掛けてきた。
「ええーと‥‥難度の高いゲームでした。」
窓野は言葉を選んで答えると、羽田の反応をチラ見した。
「個性的なゲームでしたね。」
羽田も愛想よく言葉を選ぶと、顔を直木に向けた。
「ああ、それから、こちらは‥‥」
「フリーの直木です。
今回、ゲームの制作進行とサポートをさせて頂ければと。」
直木は手慣れた感じで名刺交換を行った。
そして着席。
「今日はどんなゲームにしたいかを伺えればと。」
羽田が神山に切り出してくれた。
「どんなゲームかぁ‥‥う~ん‥‥。」
まさかノープランで来たのか?
そう思っていると、
「まず、まともなゲームにしてほしい。」
真顔で神山が言って来た。
読者の皆様の反応があるようでしたら続きを書きます。