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俺は悪役令嬢の出るゲームの続編を作っていました  作者: 鳩野高嗣
第七章 俺もマシンも傷だらけだが
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俺もマシンも傷だらけだが【Aパート】

これはフィクションとしておきます。

仮に現実で似た事があったとしてもフィクションとしてお読みください。

「コックリちゃん、やっぱり企画通らなかったんだって。」


 羽田(はねだ)が何故か嬉しそうな顔で窓野(まどの)に話しかけてきた。


「『やっぱり』って‥‥。」


「で、上司の上道(かみみち)社長から何て言われたと思う?」


 上道は四十三歳でツナミグループの一角、ツナミエンタテインメントハポンの代表取締役社長になった切れ者だ。


「さあ? 何て言われたんです?」


「『コックリちゃんはねぇだろ』だって、ぷぷぷっ。」


 羽田はすごく愉快気だ。

 まあ、企画的に(かんが)みて、もっともな話ではあるが。


「たぶんイレブンキー社内でも、あの企画が通ると思ってた人、誰もいなかったと思いますよ。」


「だよねー。」


 そう言うと羽田はニコニコしながら自分の席へ戻って()った。



 それはともかく、直木から想定よりも二日遅れで届いたミニゲームのマップパターンだが――


「使い物にならない。

 ダミーの方が全然マシ。」


 という不二(ふじ)の一言で、差し替えは(おこな)われなかった。

 徹夜という対価を払った甲斐があった訳だが、この事は直木にも羽田にも黙っておいた方が得策だ。

 直木は困った時には頼りになる男なので、いい気分のままラインに残り続けて頂きたい。



 困ったと言えば、ツナミからの返答が最近(とどこお)りがちになった事だ。


 西新宿から六本木ヒルズに移ってからこの傾向はあったのだが、このところ顕著(けんちょ)になってきた。

 OKなのかNGなのかの判断も、版権先がツナミのこの作品なら即日返答が来ても良いものなのだが‥‥。

 実際、ユーザーインターフェースのデザインの返答が来ておらず、担当のフリーランスのデザイナーを長く待たせてしまっている状態だ。


 アニメの場合、監督権限で物事がチャッチャと決まっていくが、ゲームのディレクターにはそれ程までの権限はない。

 神山が言うには、分散していた会社が一つにまとまって巨大になった分、小回りが利かなくなったとの事。

 彼はそれを『宇宙戦艦ヤマト』と揶揄(やゆ)していた。


 外注先が多いラインとなった為、そこへ回す窓野の絵コンテも全てツナミ側のチェック待ち。

 千倉と彼女のアシスタントのシナリオもまた同様。

 それでも、マスターアップの時期は延びない以上、ただひたすらに書き続ける以外ない。


 しかし、返答が滞っているという大義名分があるので、帰宅出来るのはありがたい。

 一応、イレブンキーの周辺に銭湯が数件あり、入浴料の領収書も認められているが、湯に浸かると眠くなり、徹夜の作業に支障をきたすので、窓野は滅多に使わない。

 彼にとっての帰宅とは、入浴とまとまった睡眠の確保という人間として最低限の生活を得られる、とても重要なイベントなのだ。


 ● ● ●


 数日後。

 ツナミのディレクター、尾上(おのうえ)が定例会議の際に、プリントアウトしたシナリオに赤を入れたものを紙袋いっぱいに入れて持ってきた。


「これ、今までに溜めていた分です。」


 尾上はドヤ顔で窓野と羽田、直木に告げた。


「‥‥かなりありますけど、どのくらい赤、入ってますか?」


 窓野は恐る恐る(たず)ねた。


「入ってない紙は、ほとんどないんじゃないかですかねぇ。」


 戦慄させるような台詞(せりふ)をしれっと言う尾上。


「ちょっと拝見。」


 直木が紙袋から尾上がシナリオが赤を入れたものを取り出し、ペラペラとめくる。


千倉(ちくら)さん、直し切れるかなぁ?」


 直木はうつむいてこぼした。

 その数秒後、


「窓野さん、直せます?」


 直木は窓野に向けて質問を投げてきた。

 進行管理という役割上、仕方のない事だが、直木自身(じぶん)が直すという選択肢はないようだ。


「一日やってみないと、どれくらいの日数掛かるかはわからないですね。」


 冷静に答えた窓野に直木は、


「とにかく、千倉さんのスピードをこれ以上落とす訳にはいかないから。」


 冷徹に言い放った。


「‥‥ですね。」


 要は『やれ』という命令だった。

 窓野も修正希望入りのシナリオに目を通し、そして気が遠くなった。

感想、評価、ブクマを付けてくださっている方々、本当にありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ツナミのディレクターに振り回される下請けがやたらリアルでいい。
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