性別も年齢も関係ないですよ【Cパート】
「サブシナリオのライターの二人をチェンジしてください。」
電話は千倉からだった。
「えっ? 一体どうされたんですか?」
窓野は千倉にいきなりの要求の意図を尋ねた。
「どうって‥‥窓野さん、あの二人の書いたサブシナリオ、読みましたか?」
千倉の口調はいつも以上に圧があった。
あの二人とは粟原、春目に他ならない。
「ええ、読みましたけど。」
窓野は千倉の意図が読めない以上、端的に答える以外なかった。
「話の流れを全く理解してないとしか思えないんですよ。
おまけに話はつまらないわ、萌えないわ。」
ああ、いつもの事だ。
粟原、春目、両ライターとも文章の格式だけは高い。
しかし、面白みの欠片もない文章を手早く書くだけだ。
それでも文章の格式を重んじる版元は意外と多く、判定で彼らがコンペディションを勝ち残るケースも少なくなかった。
人呼んで『シナリオ界のK1の武蔵』。
「しかし、チェンジと言っても、今日はもう羽田も帰宅してしまいましたし、自分の一存ではちょっと。」
「ええ、それはもう夜の十時を回ってますからね。」
そんな時間になんで電話をしてくるの?
「羽田さんへの相談は明日として、今、窓野さんにちょっと提案したくて。」
「はい、なんでしょう?」
「あの二人を外して頂いて、私の知り合いのライターに入ってもらいたいんです。
――ああ、彼女へのギャラは私から支払うんで。」
「はあ。
‥‥それでライターさんは何名いらっしゃるんですか?」
「一人です。」
「えっ、お一人ですか? 足ります?」
「そうですね、正直もう一人くらいいないと。」
「ですよね。」
「そこでご相談なんですが、窓野さん、サブシナリオ書いて頂けないですか?」
「えっ、自分ですか?」
「ツナミさんからの調整、直されたのって窓野さんですよね?
それに『テブプリ』のシナリオも書かれていたとか。
粟原さんたちより何倍も乙女ゲームを理解されてるし、書けると思うんですよ。」
「自分、アラフォー近いオッサンですよ?
それに、『テブプリ』は一応、青春ゲーであって、乙女ゲーとは少し違う気が。」
「『テブプリ』は私的には充分乙女ゲームです。
それに乙女ゲームのシナリオ書きに性別も年齢も関係ないですよ。」
「そ、そうなんですか?」
「そうです。」
千倉はキッパリと言い切った。
悪い気はしないが、これ以上仕事を抱え込んだらパンクしかねない。
「お話はわかりました。
明日、羽田が出社したら相談してみますね。」
「是非お願いします。」
「ああ、それから‥‥。」
まだあるんかい。
「悪役令嬢の一人、マリリン親娘が攻略対象のカミーユの故郷で儲ける下りを詳しく教えてください。」
「ああ、そうですね。
じゃあ、詳しい流れを――」
カミーユの故郷トラビオーネは食糧供給と天然資源確保の重要な拠点だった。
島国の王国での補給線を延ばす為にそこを押さえておきたい革命軍。
しかし、それと敵対する王国軍は、そこを押さえられるくらいならと焦土作戦を展開。
それにより延び切った補給線を維持出来なくなった革命軍は一時撤退するも、焦土となったトラビオーネはたちまち食料危機となる。
マリリン親娘は王国側に忍ばせていたスパイから事前に焦土作戦実行の日程を聞き、食料と資源の多くを潤沢な資金を投じて買い占め、食料危機が起こった後、それを高値で売り捌き、莫大な富を得る、というのが主な流れだった。
逆にこれを封じる事でマリリン親娘を没落させられるフラグの一つが立つ。
「なるほど、ありがとうございました。」
「いえいえ。」
そんな長電話をしているうちに、終電を乗り逃してしまう窓野。
(‥‥今夜は会社に泊まるか。)
窓野の苦難の終点は先が見えない程、まだまだ遠い。
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