新規プロジェクト、始動す【Aパート】
これはフィクションとしておきます。
仮に現実で似た事があったとしてもフィクションとしてお読みください。
「次も乙女ゲームよ!」
二〇〇四年某日、小さな会議室に呼ばれた窓野明石は、勤める有限会社イレブンキーの女社長、羽田紳子からそう命じられた。
「はあ。
いつもの事ですが、それ、もう決定事項なんですよね。
でも俺、明日からプロジェクト休暇なんですけど。」
プロジェクト休暇とは、一本のゲームがマスターアップした際、土日祝日返上、ついでに帰宅も返上した疲弊しきった戦士に与えられるまとまった休日である。
「うん、知ってる。
けど、休みって言ったって、どうせ暇なんでしょう?
だから、このゲーム、貸すから攻略しといてくれない。」
そう言うと羽田は窓野に一本のゲームを差し出した。
「ダインリーベ?
‥‥えーと、メーカーはツナミさんですか。」
『美少年かどわかしゲーム』と堂々と銘打ってあるパッケージに窓野は正直引いた。
「羽田さんはもう遊ばれたんですか?」
「うん。」
「どんなゲームでした?」
「クソゲ―。」
「‥‥マジっスか。」
休日を返上させてクソゲ―をやらせる大脳を虫干ししたいと思いつつ、窓野はそう言うのがやっとだった。
「まだ大っぴらには言えないんだけど、次のプロジェクト、その続編だから。」
「いや、思いっきり言ってますよ。
しかも、クソゲ―って。」
「だって、登場キャラ、全員頭がおかしいとしか思えないシナリオだし、育成パートはバランス悪いし。」
「えっ、育成ゲームなんですか?」
「そうなんだけど、続編はアドベンチャーにしてもらったわ。
ウチ、五千万を下回った予算は皆、アドベンチャーにするから。」
「でも、『テブプリ』の一作目は四千八百万でしたよね。」
テブプリとは『テーブルテニスの御曹司』の略称で、そのゲーム化である『スイート&ビターズ』は育成あり、アドベンチャーあり、アクションありの何でもアリのゲームだった。
システムは一見『どきどきマテリアル』、通称『どきマテ』に似せてあるが、考えてみてもらいたい。
制作するのに何億も掛けた『どきマテ』を五千万を切った予算で作れる訳がない。
どうやったらお客さんに「これ、どきマテじゃん!」と言わせられるかに頭を悩ませたものだ。
しかし、企画の奇策とスタッフの熱意と原作の予想外の人気高騰が重なり、三作連続でゲームは制作された。
「アレ、ツナミの丘町さんにダマされたのよね。」
「何、遠い目をしてるんですか。」
「まあ、そういう訳で、連休をエンジョイしちゃってください。」
そう言うと羽田は席を立った。
(無駄に長い休みとクソゲ―を出されるより、残業代をもらいたいんだけどなぁ。)
窓野は言いたい言葉を呑み込むとクソゲ―を片手に立ち上がった。
読者の皆様の反応があるようでしたら続きを書きます。