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恋愛理想は焼き菓子のように  作者: 日下部素
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帰路、直人との分かれ道、

「じゃあな、悪いが食材の買い出し、明日よろしくな」

「うん、また明日」

別れの挨拶をして、互いの帰路に就く。

理央は歩きながらもあの大福のことを考えながら帰宅した。



翌日。木曜日。

いつものように直人が朝の挨拶しに理央のもとへ行き、改めてケーキの材料の買い出しについて詫びを入れ、自身のクラスへと向かった。

放課後、理央は家庭科室に足を運んだ。

家庭科室の扉を開け入室。

そこには帆貴がいつものように黒板の前の机の席に座っていた。

「お疲れ様」

「お疲れ様です」

理央が歩きながら、机の方へむかうと帆貴が立ち上がりながら眉をひそめ彼に語りかけた。

「急でなんですが、徳子先輩が今日の買い出しに来られなくなってしまったの」

申し訳なさそうに帆貴が理央へ伝えた。

「え?そうなんですか」

驚きながら、一瞬考えた理央は貴帆に尋ねた。

「そしたら、また日を改めて買い出しにいきますか?」

「そうすると熊谷君の部活動の関係もあるし、材料自体は私が何を買えばいいかわかるから、泉君と一緒に行こうと思うのだけれどいいかな?」

帆貴はやや上目づかいでじっと見つめお願いするように理央に問いかける。

やや潤った瞳が理央の心をくすぐる。そんな顔をされたら断れるはずもない。

「も、もちろん大丈夫ですよ、荷物持ちくらいしかできませんが」

「ありがとう!」

2人で放課後に買い出し。まるでデートみたいだなと舞い上がりつつも緊張した理央。自然とどこに買い出しに行くのか尋ねる。

「材料の買い出しってどこに行くんですか?」

「駅前の方に出て、家庭科部でもよくつかうお店で買おうかなって考えてます」

「わかりました」

帆貴が支度を整え、

「じゃあ行きましょうか」

学校を出て駅の方へ向かう。



「こういうの初めてです、学校の活動で買い物するの」

「本当?中学校の時は?」

「中学は運動部でどちらかというと同好会みたいな部活だったので郊外の活動はほとんどなかったんですよ」

「源先輩は何かやってたんですか?」

「私は委員会活動くらいかな、中学の時は習い事とか色々と忙しかったの」

「そうなんですね」

「田ノ浦で家庭科部に入部したきっかけは何かあったんですか」

「お菓子作りとか、いろんな料理に挑戦したくて入部したの」

「私が入部した時は卒業した先輩たちがまだ在籍していて活発だったんだけど、時がたつにつれて進学とか受験に追われていたみたいでそこから徐々に活動が難しくなってしまったの」

やや寂しそうに答える帆高。

「でも…泉君がきてくれた」

にっこりと笑顔をみせ、心の底から嬉しそうに理央を見た。

いつもの帆貴とは違いやや理央に砕けた雰囲気で接していた。

新入部員もはいり、部活動も動き出しつつあるためか帆貴が浮き出しだっているように理央は感じた。



「ははは…」

理央が照れ臭そうにし下を向きながら頭に手をやり恥ずかしそうにはにかんだ。

「それも、熊谷君も連れてきてくれた。」

「あともう一人で家庭科部も存続できそうで、私わくわくしてるの」

「コンテストだったり、イベントだったり、夏休み、文化祭…」

「いわゆるアオハルってこんな感じなんですかね」

ふんわりとし、温かい雰囲気をまとった帆貴と一緒にこの時間が過ごせることに理央はなんとも例えがたい幸せを感じていた。

理央は自然と献身的な気持ちが心から湧いてきていた。

「まだ高校に入って一か月もたたないのでわからないことが多いですけど、家庭科部の活動、がんばります!」

「よろしくお願いします!」



しばらく歩き、駅の近くの商業施設内にある目的の店についた。

その店はお菓子作りに使用する材料などを主に取り扱っており、取り扱っている商品とは裏腹に店内は大人びた白色と黒色を基調とし商品棚は木材調の装飾でおしゃれな雰囲気の店構えだった。

「ここでいつもお菓子の材料とか料理に使うものを買っているの」

「今回は薄力粉とかグラニュー糖とか後日使おうと思っている材料を買います」

「たまごとかはスーパーで買おうかな」

「わかりました」



理央は自然と商品を入れるかごを持ち、帆貴の後ろについて回った。

帆貴は手儀よく品物をかごに入れていく。

理央はこの店の前は通ったことはあったが入店したことはなく、品物の多さと物珍しさにちょくちょく、止まっては品物がどういうものなのか見とれていた。

帆貴が品物を探して歩きまわっている途中に、理央は自然と足がとまり陳列されている品物を何気なくみていた。

ある商品が気になり、ぼーっとしているとそれに気が付いた品出ししていた女性店員が理央に気を使い感じよく笑顔で接客をした。

「何かお探しですか?」

小柄でかわいらしい店員が理央に近づき話し始める。

「あ、いやこの商品ってどういう風に使うのかなって疑問に思って」

「この商品は、マロングラッセといって栗を甘く煮詰めたもので様々なお菓子作りのトッピングなんかに…」

「泉君…」

理央と女性店員の会話に割り込むように抑揚のない声で彼の名前が呼ばれた。

帆貴が真顔になりこちらを見つめている。

うれしい顔、悲しい顔などを見たことがあったが理央は帆貴の真剣、というか冷たさを感じる表情に近い顔と鋭い眼差しを目の当たりにした理央は動けないでいた。

目は口程に物を言うとはこのことか、冷たい気迫、どうしてそのような顔をしているのかがわからないでいた。

「材料もそろったし次のお店いきましょうか」

何事もなかったかのようにいつもの笑顔にもどる。

「は、はい」

「すみません」

特に悪いことをしたわけではなかったが店員に謝り、帆貴についていきレジカウンターへと向かう。



包容力を感じさせ、誰に対してもあたたかく接する帆貴が先のような冷淡な表情を見せたことに驚きを隠せないでいた。

何か帆貴に対して悪いことをしただろうかと思いを巡らせた。

レジカウンターに品物が入ったかごを置き、店員が一点一点商品をレジに通す。

帆貴が会計をすまし、商品が詰められたレジ袋を受け取った。

「自分が持ちますよ」

「ありがとうございます」

咄嗟に理央が気を利かせ、帆貴がその好意を受け取った。

レジ袋を受け取りながらも先ほどの一瞬の振る舞いに動揺していた。

次の目的地へと向かう道すがら会話の糸口を探そうと咄嗟に話題を持ち掛けた。

「食材とかの出費とかって部費から出るんですか?」

理央が疑問を投げかけた。

「部費から出ることもあれば、自分たちで出すこともありますよ」

「へ、へーそうなんですね」

「今回は新入生歓迎ってこともあって徳子先輩と私で出費してます」

どうやら今回の出費は先輩方の懐から出るらしかった。


よろしければブックマーク、☆の評価、感想をいただけますと幸いです。


作者の励みになります。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


これからもよろしくお願い申し上げます!

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