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恋愛理想は焼き菓子のように  作者: 日下部素
7/30

7

翌日、放課後。

理央は直人を家庭科部へと連れていくために、A組へと向かう。

ホームルームが終わっていたらしく直人と廊下で出会った。

「よ!」

「あ、ちょうどよかった」

「迎えに行こうと思っていたんだ」

「お、そうか。でもちょっとE組に用事があってな。すぐ終わるからついてくるか?」

「ああ、いいよ」

E組へと二人は向かう。

直人はE組の前方の扉から顔を覗き込ませて、誰かを探しているようだった。

何かに気づいたようにカバンから本を取り出した。

「お、いた!雅弥!化学の教科書、あんがとな。返しに来た」

直人はどうやら教科書を忘れたらしくE組の生徒にそれを借りており返しに来たようだった。

雅弥と言われた人物は直人に気付いたらしく自身の席から顔をのぞかせた直人の方に近寄ってきた。

「ありがとう。今日、用事があるからって言ってたから明日でもよかったのに」

「借りたものはすぐに返すのが俺の流儀だ。なんてな」

直人は雅弥に本を返した。

雅弥と呼ばれた人物は率直に、素直に、感想を述べると美人だった。北欧の美少年のような何もかもが透き通ったような透明感と汚れを知らないような童顔、何も言われなければ女性かと見間違えるほどだと理央は感じた。声質も柔らかく優しい。変声期をどこかに置いてきてしまったのかと思わせた。

「あ、C組の…泉君だっけ?熊谷君から噂は聞いているよ。ていってもそんなに知っているわけじゃないけど」

満面の笑みで理央に応対する。天に召されたらこんな天使が導いてくれるのかと妄想を膨らました。

「は、はじめまして、お付き合い、じゃなくてよろしくお願いします。泉理央です」

「よろしくね。僕は北条雅弥(ほくじょうまさや)。気軽に雅弥って声をかけてくれると嬉しいな」

「それじゃあ、俺たちこれから用事あるから。じゃあな」

「うん、また部活で」

「じゃあね、泉君」

純朴な笑顔で手を振り二人を見送る。

自然と手を振り返す理央。危うく告白するところだった。

E組から離れ4階の踊り場から降りつつ、理央は直人に質問した。

「あんな子いたんだ」

「ああ、弓道部の部活仲間でな。部活が終わったら一緒に帰る時もある」

「…うらやましい」

「何が?」

「いや、なんでもないけど」

「雅弥は部活以外にも華道をやってるらしいから家庭科部への勧誘は難しいと思うぞ」

「あ、そうなんだ…」

意味もなく落ち込む理央だった。



理央が直人を連れ、家庭科部へと足をのばす。

扉から中を覗き込むと帆貴が中央の机に座っていた。

ノックをして家庭科室の扉を開けた。

「失礼します!」

理央はいつもよりも張り切った声で挨拶した。

「お疲れ様です」

穂貴が返礼する。

「失礼します」

続いて直人が挨拶をした。

「こんにちは…あれ弓道部の…」

直人は一瞬、眉間にしわを寄せ強張った顔を見せたがすぐに元の顔に戻った。

「熊谷です。理央と一緒に入部の手続きをしにきました。」

以外にも2人は顔見知りのようだった。

「本当ですか!ありがとう!もう入部してくれる子をみつけてきてくれたのですね!」

「ん?あ…なるほど。」

直人が唐突に何か納得するような素振りをみせた。

「どうしたの直人?」

「いやなんでもない」

「今更、入部しないとかはなしにしてよ」

理央が唇を尖らせ牽制する。

「そんなんじゃない」

「先輩、よかったですね、部員が増えて。」

直人が軽く笑みを浮かべながら帆貴に含みがありそうな何やらよくわからないことを言い始めた。

「?」

帆貴もよくわかってない様子だったが

「立ち話もなんですしどうぞこちらに座って」

帆貴が微笑みながら家庭科室に招き入れる。



「あんまり失礼なことをしないでよね」

理央が直人に釘を刺した。

「…たぶん、いずれわかるだろうさ」

意味深長、よくわからないセリフを言った。

困り顔の理央を差し置いて直人は帆貴の座っていた中央の机の反対側、窓際の席に腰かけた。それに続き理央も一つ席をあけて直人の横に座った。

帆貴は月曜日のようにティーポットを備え付けの食器棚から取り出し、給茶の準備を進めた。

ガラッ

家庭科室の後方の扉が開く。

「あら!今日はお客さんが来てるね」

徳子だった。軽く笑いながら、直人の方を見た。

帆貴もちらっと徳子の方に目をやる。

「入部をお願いして自分が呼んだんです」

やや早口で理央は補足する。

「え!もう入部希望者を見つけてきてくれての」

「敏腕な後輩君だね、泉君は」

「中学校の友人で自分からお願いしたんです」

徳子が家庭科室に入り理央たちと同じ机の反対側に座った。

「はじめまして、私は3年の安徳子、よろしくね」

「1年A組の熊谷直人です。よろしくお願いします」

帆貴と挨拶を交わした時とは違い、丁寧なあいさつとお辞儀を直人はした。

「俺は弓道部に所属していて、兼部になり毎回出席できるわけではないですけどそれでもよければ入部させて下さい」

「可能な限り、出席はするつもりですので」

直人が率直に自身の現状を説明した。

「金曜日以外は家庭科部の活動に出席可能なので自分からお願いしました」

「自分からもお願いします」

理央は頭を下げ、徳子に懇願した。

「んー…そうだね…」

目をつむり悩まし気な徳子。

「私は構わないんだけど結局のところは生徒会の判断だからね~」

「直人に可能な限りこっちの部活に出てきてもらって活動実態を作れば生徒会も納得すると考えたつもりだったんですが」

徳子は頭を天井の方に向け、考えている様子だった。

「まーなるようになるか」

「折角、熊谷君も入部してくれることだし」

笑いながら徳子はこちらに顔を向きなおし直人の入部を許可した。

「ありがとうございます!」

「いやいや、お礼を言うのはこっちのセリフだよ」

「そうだ、岡部先生に入部届もらってきたよ」

「あとからまたもらいに行くの手間になるから何枚かもらってきたんだ、ちょうどよかった」

「岡部先生?」

理央は首を傾げた。

「あ、そうかまだ言ってなかったね」

「家庭科部の顧問は家庭科の岡部先生なの、職員室の後ろの窓際にいるハキハキした女性の先生、覚えておいてね」

「わかりました」

同じくして帆貴がお盆に四人分の紅茶の注がれたティーカップを抱え、机に置きそれぞれに配膳しはじめた。

「こんなに順調にいくなんて、嘘みたいですね先輩」

「まさに救世主だね、泉君は」

「直人にお願いして入部を持ちかけたので」

徳子は直人の方を向き、問いかけた。

「熊谷君は弓道部の活動は大丈夫なの?」

「一応、部長と顧問の高島先生には許可をもらいました。」

「あー、二階堂君か、あとでお礼を言っておかなくちゃね」

「知り合いなんですが?」

直人がやや身を乗り出し意外そうに尋ねた。

「まぁ、たまに話す程度だけどね」

「彼も人がいいから」

どうやら二階堂というのは弓道部の部長らしかった。

「先輩、あの件、熊谷君も入ってくれることですしどうですか?例の件」

お盆を胸に抱き、帆貴が徳子に嬉しそうに話をもちかけた。


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ここまでお読みいただきありがとうございます。


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