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恋愛理想は焼き菓子のように  作者: 日下部素
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4

6時限目は少々長引き、10分程度、終了時間が押した。

そこからホームルームを簡単にすましあることに気づいた。

「先生に家庭科部のこと聞くの忘れた…」

職員室まで押して質問をしに行くのは気が引けたので直接家庭科室にいくこととした。



放課後、身支度を整え廊下に出ると直人と部活に向かう途中にすれ違い軽く挨拶をした。

「帰宅か?」

「ちょっと気になることがあって、これから行きたい場所があるんだ」

「なんだ?校内活動に興味を示し始めたか」

直人はやや意地の悪い軽い笑みを浮かべて言い放った。

「どの部活だ?」

「話しを聞いてみるだけだから今はまだ内緒」

「やっぱり部活なんだな。そうか、そうか。進展があったら教えてくれ」

「じゃあな」と理央に言い直人が弓道部へと向かった。

直人は理央の表情や機微を咄嗟に読み取り、聞いてほしくはない事柄を探ることはしなかった。

理央は直人のそういう気づかいが好きだった。…これは友情である。決して愛だの恋だのではない。断じて。そういうのではない。



何気ない会話を終え件のレシピを携え家庭科室へ向かった。

高校の授業ではまだあまりふれていない家庭科室は一階の南側にあり、奥まった場所にあった。

いざ、家庭科室に近づいてみるとなんだか緊張する。

何を話せばいいのだろか。

『先ほど中央階段の3階の踊り場でレシピを拾い家庭科部に来てみました。家庭科部ってどんな部活なんですか?』

こんな感じだろうかと内容の浅いシミュレーションを頭の中で描き、そこまで構える必要もないかと要らぬ考えを捨ていざ出陣といったところで理央はあることに気付いた。

女子生徒だろうか。どうやら中で誰かと誰かが話している声が聞こえる。

家庭科部の扉は、というか学校の大体の教室は除きこめる窓が扉に付いているのだがそこからだと彼女らがどこで話しているのかがわからずいまいち中が確認しづらかった。

やや入りづらくなったがよくよく考えてみれば誰かいてくれないとここまで来た意味がない。

詮索をしていても仕方ないので思い切って扉をノックした。

ほんの少し間があったが

「どうぞ」

と入室の許可が下りる。

「失礼します!」

理央は緊張で意図しないやや高い声で返礼をした。

「家庭科部の活動場所はこちらでよろしいでしょうか。」

「はい…あ、さっきの!」

中には2名の女子生徒がおり、彼女らは黒板の真ん前、家庭科室特有の大きな机でそれぞれ対面に位置し一人は窓側、もう一人は廊下側といったように着席しており会話しているらしかった。

一方の女子生徒が昼休みのぶつかった女子だったようだ。

さきほどの件を思い出したらしい。蝶ネクタイを見ると2年生のようだった。

「はい。先ほどぶつかった際にレシピを落とされたので届けに来ました」

「ありがとう!」

「どうぞ中に入って。」



家庭科室に招き入れられる。彼女らの座っている机のそばまで来ると呆気にとられた。

「さっきはごめんなさい。急いでいたもので…」

といった彼女は言葉で言い表せるかわからないほど美人だった。

髪は長くまっすぐで肩までかからない長さ、黒く艶があった。眉毛は太くも細くもなく綺麗に整えられ、肌は透き通るように白くかといって白すぎず健康的な血色だった。あごは美麗なラインを描き、目を奪われた。それ以上に目が特徴的でややたれ目で大きく吸い込まれそうなで、瞳に映るハイライトが眩しく感じるほど魅力的だった。

母性というのだろうか、優しく温かい包容力のある、そんな雰囲気が彼女から醸し出されていた。大和撫子とはこういう人を言うのだろう。

理央は数秒だが彼女の顔をじっと見てしまっていた。



「…どうしたのかしら?」

「帆貴ちゃんが好きなんだって」

と横からチャチャを入れてきたもう一人の女子生徒は3年生らしく眼鏡をかけ、凛とした品行方正な佇まいとは裏腹に愉快に言葉を発した。

理央は慌てて、話題をそらした。

「あ、あの、レシピを届けに来たのとここの部活動がどういう活動をしているのか聞きたくてきました!」

早口で用件を伝えた。聞き取ってもらえたか怪しかったがそれはすぐに理解してもらえたとわかった。

2人は互いの顔を合わせて驚きと笑顔が混じった表情をした。



ピー、ピー…

何かの機械がアラームを鳴らした。

「ちょうどよかった。今クッキーを焼いていたところなの。準備するから座って。食べながら話し合いましょう」

「まさに話題の途中に表れるとは驚きだね」

「そうですね。こんなに早く救いの手が差し伸べられるとは考えていませんでした。」

理央はなんのこっちゃと思いながら近くの椅子に腰かけた。

帆貴ちゃんと呼ばれた彼女は窓側の方に備えられた電子レンジの前まで行き、ミトンをつけ、レンジの扉を開けた。

中からクッキングシートの上に丸くかたどられ焼かれたクッキーが十数枚ほど耐熱皿に並べられていた。

収納されていた耐熱皿をキッチンミトンのつけた右手で取り出し、横のスペースへ置いた。

キッチンミトンを外しあらかじめ用意しておいたシンプルな白い皿にクッキングシートの余った部分をもち流し込むように移し替えた。

甘い匂いが立ち込める。

甘い物好きな理央にとってはこれほどまでにないおやつだった。

クッキーに目を奪われていると3年の女子生徒が声をかけてきた。

「どうして家庭科部に興味持ったのかな?それより先に名前だね。私は3年の安徳子(やすとくこ)

人当たりがよさそうで、おしとやかな佇まい。丸眼鏡が特徴的で純文学をたしなみそうな雰囲気だ。

「自分は泉理央です。1年C組です。」

軽く会釈をする。

「もう1人の子が源帆貴 (みなもとほたか)ちゃん。2年生。まだ入学して間もないから知られてないかもしれないけど校内きっての美少女学生さん」

「先輩、やめてください。はずかしい」

理央は彼女らの仲が結構親しいらしい感じを受けた。

帆貴が紅茶の茶葉を取り出し事前に温めておいたティーポットに入れ電気湯沸かし器からお湯を注いだ。



「泉君、よろしくね」

帆貴がこちらを向き、微笑みながら会釈した。その柔和な笑顔は理央の心に突き刺さる。

「よろしくおねがいします!」

勢いよく頭を下げ挨拶し返した。

「やっぱり照れてるね。仕方ないよね。実際美人さんだし」

「去年なんか大変そうだったよね。告白の嵐で」

「ははは…」

帆貴が苦笑いをする。

「結局全部、断ったけどね」

「自分の勉強と家庭科部だけで精一杯ですよ」

やはりといったところか。

帆貴はその美貌によりかなり男子から好意を寄せられるらしい。

スタイルもよく身長は165㎝程度といったところで特に胸周りに張りがあり目を泳がせてしまう理央である。

「で?君はどうして家庭科部に興味あるの?帆貴ちゃん狙い?」

「いや、純粋に甘い物が好きで、家でもたまに菓子作りとかを手伝うので特に部活もきめていなかったので、興味本位で…」

「なるほどね。じゃあ入部決定だね」

「え?あのまだ話を聞きに来ただけで…」

理央は徳子のいきなりの入部決定宣言に戸惑った。


よろしければブックマーク、☆の評価、感想をいただけますと幸いです。


作者の励みになります。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


これからもよろしくお願い申し上げます!

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