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恋愛理想は焼き菓子のように  作者: 日下部素
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帆貴と周がパウンドケーキを口に運ぶ。



咀嚼し飲み込むとそれぞれの意見が述べられた。

「ダメね。生地の混ぜ方が足りない。粉がダマのままになってしまってるわ」

「それに焼き加減も足りません。しっとりとした物を作ろうとしたのか中の水分がおおすぎて触感が不快です」

「そう。それにバターと砂糖の量がいまいちね」

「確かに。パウンドケーキなのか甘いパンみたいなものなのかわかりません」

「あの時のパウンドケーキとはかけ離れています」

「泉雅子の息子がつくったなんて知られたら笑われるわ」

二人のダメ出しを聞いた理央はなぜか笑顔だった。

なぜ理央が笑顔なのか二人はわかっていなかったが二人が顔を合わせた瞬間謎が解けた。

二人の意見は一致していたからだ。

帆貴と周はハッとして下を向いた。

「二人の将来の夢、思い、実現したいものを聞いて思ったんだ」

軽く口角を上げながら理央は語る。



「作るものは違えど思想や方向性は同じように温かい思いや空気を届けたい、作り上げたいっていう二人がこのまますれ違ったままでいてしてほしくないって思ってね」

「それに今のダメ出しを聞いて改めて確信した。二人とも似た者同士だって」

「やっぱり僕は周に家庭科部に入ってほしい。一緒に料理を、お菓子作りをしたいって思って今日改めて呼んだんだ」

「以前あったことに関しては僕は細かいことはわからないし口出しはできない。でもこれから話し合って料理やお菓子について造詣を深めていければお互いに多くの物を得られるんじゃないかな?」

理央は貴帆の方に目をやる。

「源先輩、いいですよね?」

それは帆貴に対して周の入部の許可を促す声かけだった。

帆貴は恥ずかしそうにうつむきながらこくり、と首を縦に振った。

「周、一緒にやろうよ。家庭科部」

理央は満面の笑みで周の方を向き入部を勧めた。

周も下を向いたまま小声でつぶやいた。

「ず、ずるいわよ。こんなの」

「確かに雅子さんに教わったことは大きいし今でも自分の中で大切にしているけど…」

次の言葉が出てこずにしばらくもじもじして顔を紅潮させている様子だった。

「『もう少し焼き加減を調節したら生地が柔らかくなって触感がよくなるかも』…確かそんな感じだったかな?今思うと偉そうな子供だね」

理央が独り言のように言った言葉に周は驚きを隠せなかった。

その言葉は周が初めて理央からもらった料理作りへの助言だった。

周は腹を決めたようだった。

「わかった!わかったわよ。入部、すればいいんでしょ。でも私もいろいろあるからそんなに顔出しできるかは…」



言い訳のような言葉を紡ぎ出し、弁明していると調理器具を持った徳子が入ってきた。

「理科準備室の片付け終わったよ~」

三人が後方の扉から入ってきた徳子に目をやる。

「あ、ありがとうございます。早かったですね」

若干、挙動不審な理央。

「お!その様子だと二人とも仲良くなれたのかな?」

笑顔でこちらに寄ってくる徳子。

「どういうこと?」

「実は二人にばれないようにパウンドケーキを作ろうと考えたんだけど場所に困って化学の先生にお願いして準備室の場所と電子レンジを借りたんだ。それで」

徳子が割って入る。

「泉君がとっても必死だったからいろいろ手伝っちゃった。泉くんから相談があるって言ってきて水曜日は私が他の二人に休部を伝えて泉君と私だけで話し合ったの。わざと下手にパウンドケーキを作るのに苦労したよ。まぁ概ね泉君がやったんだけどね」

と照れ臭そうに笑い

「あと、帆貴ちゃんと平さんがいてくれたらもっとおいしいお菓子も食べられるかもって私の両手つかんでお願いしてきてしょうがないなって感じでまるで子犬のように…あ、これは言わない約束だったけ?」

その様子を見ていた帆貴と周ににらまれる理央。

「それは安先輩に手伝ってもらうための口実というかなんというか…」

慌てる理央に音もなく近づいてきた周が理央の肩をおもいきり爪をたてられ握った。

「へー、ずいぶん面白そうな理想を抱いていらっしゃるのね?」

満面の笑みで鬼気迫る勢いを感じさせる周。

「いたたたた!やめてやめて!」

理央は高速で握られた肩をはたくが全く効果がない。

帆貴は立ち上がり近くにあったパン切包丁をもちながら、

「泉君、ノコビキって知ってますか?人体を調理に使う際の勉強のために一役買っていただきたいのですが?」

こちらも眩しい笑顔で理央に迫る。

「そんなタイミング絶対やってこないですよ!そんなんで切られたら…」

徳子が笑ってそんな三人を眺めていた。


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ここまでお読みいただきありがとうございます。


これからもよろしくお願い申し上げます!

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