誘いと尾行
「今日はここまで、宿題を忘れないように!以上」
授業が終わるのは、いつも先生の“以上”で終わって号令などかけない。
先生が面倒だと言いしなくなったのだ。
今日は藤木と咲希に笑わせてもらったので楽しい思いが出来、父さんの心配などしなかったと言ってもよかったがそんな自分を悪い人間になったのかなぁなんて思った。
授業が終わると帰りになるのだが、会なんて事もしなく先生が面倒だと言って自由に帰らせている。なんて自由なんだ思うが先生が何もしないだけなのだがそれなら教師を辞めろという気になる。
まぁこんな事どうでもいいのだが。
「さぁ帰ろう!」と言ってきたのは咲希だった。
自分は「うん」と返事をして帰ろうとした。
「進藤さん」
だが不意に誰かに話しかけられた。
声の主は転入生の海藤祥だった。
「ちょっといいですか?」
海藤は何故か敬語で話し、表情は今朝と変わらず無表情でちょっとずれた眼鏡を掛け直した。
「な、何?」と自分は訊いたが要件より女子の視線が気になり、チラッと視線の先を見ると冷たい眼で見返して来た。
「ここでは話すのは無理なので、お時間良いですか?」と海藤は丁寧な敬語で訊き、そのしゃべり方は本当に中学生かと疑問を持ってしまうほどだ。
自分は咲希に一緒に帰れなくなったと言い、女子の視線を避けて海藤と一緒に教室を出た。
二人が出て行くと、藤木もその後を追うように教室を出たので慌ててそれを咲希が走って藤木の腕を掴んで止めた。
「ちょっと!どこ行く気?」
「あの二人を尾行すんの」
「はぁ!?」となんでと訊く前に藤木の顔が真顔なのに気付いた。
尾行なんていけない事だと思い、止めたかったのだが顔は何故か真顔でその真顔に何も言えなくなった。
そんな咲希が掴んでいた手の力が弱くなった瞬間を突いて藤木は咲希の手を払い除けもうスピードで走り出した。
咲希は「もう!!」とが呆れて言うとバッグを強い力で握りしめてから藤木を追い駆けるように走って行った。