母の本音
教室に着くと教卓の前に先生がいて後のドアから屈みながら入ろうとしたら、早速見つかってしまった。
「進藤、またお前は遅刻か!?」
先生の呼びかけでクラス皆の視線が自分に来た。
「えっと…すみません…」
そう言うと教室から笑い声が響いて、笑い声と共に10分休みになった。
さすがにこればかりは、顔から火が出そうになった。
「お前また遅刻したのかよ?」と話しかけてきたのは、クラスメイトの藤木基和だった。
「今日は、頑張った方なんだけどね…父さんとの無駄話で…」
「そういえばさぁ真那のお父さんって塾経営してるんだよね?」
今度は、幼馴染で親友の飯田咲希だった。
「いやぁ経営はしてないよ…ただ雇われただけだと思うよ?」
「へぇそうなんだ!てっきり経営してるのかと思ってたよ、でも前はどっかの学校で教師してたんだよね?」とちょっと質問攻めをしてきた咲希。
こうやって父さんの事をよく訊くのはよくあることだったが、これ以上しゃべってはいけないと思い、話を反らそうとしたのだが藤木が「ふーん…初めて知った、でもなんで親は頭良いのにお前自身は馬鹿なんだ?」と話を広げて一言多く言った。
「うるさいな、大きなお世話だよ!確かに兄弟の中でも馬鹿だけど…」
双子の弟妹よりも馬鹿ってことになる。
「父さんは、体育専門だったし…頭使うやつじゃないし…」と口を滑らしたと思い、言うのを辞めた。
「もういいじゃん!!辞め辞めこんな話!」と話を反らすではなく話を撤回した。
父さんの話をしたくないのは、話したくないではなく話してはいけないからである。
理由なんて決まっている誰にも話してはいけない、先生にっもクラスメイトにも親友にも話していけない。話したら自分の前から誰もいなくなるんじゃないかと。
だから自分たちは、あの事件の事を何も話さない。
母さんのようにいなくなるんじゃないかと思ったから。
事件前は、母さんがいたのだ。
だが、事件前でも母さん父さんは喧嘩をしていた。
理由は知らないがもうその時に父さんに冷めてしまったのだろう。
母さんは父さんばかりでなく、自分たちも置いて行ったが子育てに疲れたのかただおいて行ったのかは、自分たちは知る由もない。
だが、出て行ったことが母さんの決意・本音なのは、間違いない。