平常な一日
朝食をなんとか食べ終わり食器を片づけながら、父さんにお礼を言った。
「父さん今日はありがと!」
「…遅刻すんな」
相変わらず素直じゃないなとか思いながら昨日の事は父さんは許してくれているだろうし、海藤のおかげでまた仕事にも復活出来る事も父さんは分かっている。
自分は階段を一段跳びしながら部屋に向い、制服に着替えバッグを持って洗面所に行き、歯を磨き顔を洗って階段を降りた。
海藤も父さんに向かって「ごちそうさまでした、お邪魔しました」と言ったらしい。
玄関に行き「行ってきまーす!」と自分が言うと同時にドサッという音が2階から聞こえた。
きっと兄妹の誰かが起きて、ベットから落ちたに違いない。
「早く行こう!」
「あぁ……ホントに無茶苦茶な奴だ」
海藤は自分の身勝手な行動を見てやれやれと首を振った。
そんな海藤の気持ちなんて自分は知る由もなかった。
「ねぇ?昨日あの後どうだった?」
「母さんには昨日の事は何も話さなかった。言ったら家族が壊れるんじゃないかって思って…さ」
「えっ?話さなかったの?」
自分は身を乗り出すようにして言う。
「母さんに気持ちは伝えたよ。自分考えは間違いだって気付いたらしい」
「それはよかったね」
会話が進んだところで学校が見えた。
いつも門には先生が立っているのだが、今日は時間も早かった。
「あれっ?進藤と海藤じゃん。二人で登校?ラブラブだねぇ」
そう言って来たのは藤木だった。挨拶をしろと言いたい。
藤木は、もう教室にいるらしく窓から手を振ってこちらを見下ろす態勢だ。
何時に家出てんだと疑問を持ってしまう。
「違うってばっ!友達の印みたいなもんだよ!ね?」
「えっ?俺はそんな事思ってませんよ。逆に恋人の証でしょ?」
自分の問いに予想と違う事海藤は言って来た。
いつの間に敬語になったのかとも思ったが、学校だからだろう。
このキャラは崩さないらしい。
さっきの戸惑いの表情など微塵もなかった。
だから、あの表情は父さんに会った時の表情と勝手に自分は決め付けた。
また、にっこり笑う海藤を見て自分は海藤からちょっと離れた。
「あっ!真那〜!!」
今度は後から声がして振り向くと、それは咲希だった。
「咲希、おはよ!」
「おはよ!どうしたの?珍しいね、遅刻しないで来るなんて…」
咲希は驚いたのように言ったが、隣にいた海藤に目が行った。
「もしかして、付き合ってんの!?」
展開が早いっ!皆そう思うのか…さっきから門から歩いてくる女子の視線が痛い。
皆、自分を睨むように凝視して来る
そりゃそうだ、こんな美形が隣にいるんだから。
今日の海藤は眼鏡をしていなくて、表情が分かりやすい。
女子には、無表情でもメロメロにしてしまう程なのに笑う顔など見せられたら、倒れる人すらいるだろう。
「そんなんじゃないよ!全然違うからねっ!アハハッ」
自分は恥ずかしくなり、二人を置いて教室へ向かってしまった。
「ま、真那!?」
咲希の声も届かず、二人は立ちすくんだ。
「あの…昨日は御免なさいっ!!家族の事なのに、話に入って来ちゃって」
咲希は何を話していか分からず、昨日の話を話題にした。
「別に、いいよ。君らが言ってくれなかったら、どんな事になってたか分かんないし。むしろ感謝してるよ。それに父さんも考え方変えてくれたしさ」
「そうなの?よかったね!」
咲希の言葉に海藤は笑みを浮かべ、深く頷いた。
「行こう。遅刻するよ」
立ち話を済ませたところで海藤は歩きだした。
「うん」
咲希も追い駆けるように海藤に続き、教室へ向かった。
その後、真那が先生に遅刻しなかった事を珍しがられ、クラスの女子に海藤とはどういう関係かなんて聞かれ、その答えを海藤が友達以上・恋人以上の関係なんて答えてしまい、クラス中がパニックなった事は言うまでもない。