意外に鬼畜
翌朝、自分は珍しく遅刻せずに済んだ。
昨日のように自然と起きたわけではない。
家族以外の人間に家の外で大声で自分の名前を叫ばれたからだ。
それは、今から1時間半ぐらい前の事である。
自分は父さんの仕事復活で、また元の生活が戻ると思い何も考えずに熟睡していた。
いつも家の中は兄妹たちの声で響くのだが、今日は父さんすら眠っていた。
当然、自分の部屋も静寂に包まれていて聞こえるのは芽衣の寝息か、たまに廊下を誰かが歩く足音ぐらいだ。
だが、今日は違う音が自分の耳に入って来た。
その音は家の中ではなく、外で聞こえているらしく自分は誰かがわざと、自転車か防犯ブザーを鳴らしているのかと思って気にも留めなかった。
数分経っても音は止まず、さすがにうるさいと思ったが、今度は突然音が止み叫んでいる声がした。
自分の家は他の家とは違い、人の声などはたいてい聞こえないのだが自分は、これは自分しか聞こえていないのか、皆が鈍いのかどっちかだと思った。
何故なら芽衣はまだ熟睡中で廊下では足音や声の一つもしないのだ。
「誰だ?近所迷惑だって…」
起き上がって窓を開けようしたが、それが変な奴で事件に巻き込まれるような展開があったら大変だと思い、耳だけ傾けた。
「…う…どう…」
微かに聞こえたが、自分は何を言ってるのか、それが誰なのか分かった。
ガラっと窓を開けて下を見下ろした。
「か、海藤!!」
「よっ!」
そこには、海藤祥がいた。
制服姿で髪形も整っていて、昨日と同じ優等生という感じオーラを漂わせていた。
海藤は自転車に乗ったまま自分に挨拶して来て、顔には満面の笑みを浮かべていた。
「あっ!待ってて、今行くから!」
自分は廊下・階段を音を立てながら走り、玄関のドアを開けて海藤に歩み寄った。
「どうしたの?ってかなんで、自分家知ってんの?」
「いや、父さんがお前ん家調べてくれてさ」
「なんで調べてんの?」
「…朝…一緒に、行こうかなって思ってさ…」
海藤は恥ずかしくなったのか、声を低くして言った。
「えっ?ホント?嬉しい!あ、でも自分早く起きれないからなぁ…」
「いいよ、待ってる」
「ホントに!マジ嬉しい!!じゃあ家で待っててよ!うん、それが良いよ!誰も何も言わないと思うしさ!平気平気!!」
「え…でも…」
自分は海藤の意見も聞かずに自分一人で納得した。
「あれ?でも、なんで自転車何かに乗ってんの?」
自分は家の中に入ろうとすると海藤が乗っていた自転車が目に入った。
「あ、これ?お前起こそうと思って…呼鈴じゃ迷惑だし。これの方が気づいてくれるかなぁって…それで近くに倒れてた自転車借りてた」
「人の物を勝手に借りちゃ駄目!それに音を出す方が近所中に迷惑だよ!呼鈴の方がまだマシ」
幸い、今朝は皆疲れていて誰も起きず近所の人にも気付かれずに済んだ。
なので、明日からは今朝のような事が起きないように自分は目覚まし時計をセットして、自分の力で起きなければならなくなった。
海藤は「これからは7:00くらいに進藤ん家に着くようにするよ。だけど、もし起きてなかったら…」と言うと顔を近付けて来た。
「今度は抱き締めるだけじゃ済まさないからね?覚悟しといて」と言ってにっこり笑った。
この一言を真顔で言われ、自分の脳裏に昨日の話が甦って来た。
こいつはドSだ。間違いない!
自転車を元にあった場所に置き、家に入ると父さん目の前にいた。
「父さん…」
父さんは、もう着替えていてが髪はボサボサで眠そうな顔をしていた。
だが、自分たちを見ると目を見開きもう目が覚めたといってもよかった
自分が外から出て来た事も海藤がここにいる事にも驚いているようで黙って海藤や自分の顔を見た。
「あ、父さん…海藤がね。一緒に学校行こうって言ってくれてさ。だからえっと…」
自分が戸惑っていると父さんが「…朝飯食ってないだろ?作ってやるから、食ってけ」と言い台所へ行った。
「上がって、さっきの言葉さ。海藤に言ったみたいだからさ」
「…おじゃまします…」
こくっと頷くと海藤は戸惑いの表情で家に上がった。
台所では父さんが定番の味噌汁やご飯などが、もう用意されてあった。
父さんは「遅刻するから、もう食って行け」と言った。
自分は海藤を座らせ、兄妹が起きる前に食べてと言い、自分も食べ始めた。