決意(2)
その声に全員が反応して、廊下に立っている兄妹たちが横を向き、自分や海藤は驚き目をきょろきょろさせた。
声は低くもなく高くもなく、一言目でまるで探偵気のような口調だ。
でも自分はその声には聞き覚えがあった。
その声の主は「よっ!」と部屋の前に来ると兄妹たちを無視し、自分を見ては頭の前で手を振って挨拶をして来た。いつも会っては自分をからかい馬鹿にする、藤木基和だった。
「ちょっと、待ってよ!」
その藤木の脇に息を荒くして遅れやって来たのは幼馴染で親友の飯田咲希だった。
二人も制服姿だった。
「な、なんで…藤木が…?それに咲希まで…」
驚きで声が掠れた、そんな自分を藤木は「まぁ、まぁ、そう慌てなさんなって」と言った。
「な、なんだ貴様らは!」
海藤の父さんは突然やって来た、二人を見て指を指した。
「別に名乗るほどの者でもねぇよ、ただの通行人だ」
藤木は最後に一度言ってみたかったんだよねぇと呟いた。
通行人と自分は疑問に思ったが、藤木が言った直後に咲希が「何気取ってんのよ!それに通行人じゃない!」と突っ込みを入れた。
この二人は夫婦漫才師かとも突っ込みたかったが、辞めて置いた。
「改めて本題に」
そう言って藤木はコホンッとわざとらしい咳をしてから話始めた。
「実は掲示板にこの塾を買い取るって書いてある紙を見つけて、その買い取る人が海藤の父さんだったから、知らせないとって思ってさ」
藤木はポケットから折り畳んだ紙を出し広げ、自分たちに見せた。
紙には、塾に通う生徒は今すぐ出て行けと書いてあり、責任者も海藤孝明と書いてあった。多分、海藤の父さんの名前なのだろう。海藤の父さんはその話に目を見開いた。
「…塾を買い取るなんて聞いてないぞ!何一人で決めてんだよ!それに出て行けなんて、あんまりだっ!!」
海藤は自分の父親より藤木からその紙を受け取ると、ビリビリに紙を破いた。
「……」
海藤の父さんは何も言わなかった。
ただ海藤を見ているだけだった。
「…父さん…俺は父さんを許さないっ!これ以上勝手な事をしたら、親子の縁を切る…いやなら、撤回しろっ!」
そこまで言ってしまうかと思ってしまうが、海藤は本気だった。
「…分かった…」
海藤の父さんは海藤にこんなにまで言われるとは思わなかったのだろう。
あさっり言ったら悪いが、自分たちの訴えを了承してくれた。
「家の父がすいませんでした。」
海藤は何もかも解決したと自分たちが思った頃、父さんに頭を下げてくれた。
「いや…こちらこそ…」
何がこちらこそなのか、分からないが父さんも頭を下げた。
こうして何もかもすべて終わったのだが、今思えば自分たちには長く、日では短かった…様な気がした。