決着(1)
「…例え過去の事でも、誤って殴ってしまったとしても…自分の子供が通っている学校や塾に犯罪者がいるのは耐えられない…だから父さんはそういう人を許さず、仕事を辞めさせてきたんだ。これは全部お前たちの為なんだぞ!!なんで分かってくれないんだ!?」
海藤の父さんは最後の力を振り絞ったかとでも言うように言い終えた瞬間、膝から崩れ落ち悔しそうに床を殴った。
悔しい気持ちを抑えようとしているのだろうか?
だが、この人の気持ちは最初から海藤の家族や海藤自身には届いていないのは事実である。
そんな父親を海藤は無表情で冷たい眼で見ていた。
しばしの沈黙の中、床を殴っていた手を止め今度は睨むように父さんを見たその顔は、もう憎しみでしかなかった。
「お前の…お前のせいだっ!お前さえ居なければ!」
起き上ったと思ったら、今度は父さんに殴りかかろうとした。
父さんは突然の事で驚き、後退りをした。
自分たちも後ずさりをしてしまった。
「おい、父さん辞めろよ!犯罪は許さないんじゃなかったのかよ!?殴ったら父さんも犯罪者になっちゃうんだぞ?」
海藤は目を見開き、一歩前に出たが海藤の言った事など耳に入っていないようだった。
「辞めて!」
自分は父さんの前に立ち両手を広げて通さないようにしたが「邪魔だ!」と言われ右手を掴まれ左側に投げつけられた。
投げつけられた自分を海藤が支えるように受け止めてくれた。
次の瞬間、ガタンッという音と共に埃が宙を舞った。
父さんが殴られのだろうと思い目を瞑ったが、その音は逆で父さんが海藤の父さんを背負い投げした音だった。
その衝動で机や椅子なども倒れていた。
自分と海藤は固まったまま動けなくなっていて、兄妹たちも教室の入り口で立ったまま動かなくて沈黙状態である。
響くのは、父さんの息遣いで投げ飛ばされた海藤家の大黒柱は倒れたまま、また床を叩き「くそ!くそっ!」と呟き出した。
自分は父さんが元・体育の先生だった事を忘れていてた。
それに担当は柔道だったけ?
だけど、背負い投げって…避けてから余裕があったのが、よく分かるのだが…。
「と…父さん、すげー!」
慶が兄妹中で初めに答えるのはいつもの事だ。
「ご、ごめん!海藤…ありがと」
自分は我に返って海藤から離れた。
「あぁ…」
海藤の父さんはプライドを傷つけられ、もうただの落ちこぼれの人間のようだ。
「父さん、もう諦めて一歩間違ったら父さんも犯罪者の一人だったんだ。…さっき父さん、なんて言った?自分たちを守る為に人をクビにしてたんじゃないのかよ!?」
見損なったよという海藤は言った。
それに負けじと「そうだよ!」と大声で叫んだのは慶。
「もう、巻き込まないでほしい」とまた呆れ気味で言ったのは圭吾。
「父さんを救って下さい」と頭を下げて言った芽衣。
救ってくださいって…おいっと言いたかったが、突っ込む理由も無い為それは置いといた。
最後に「父さんの退職を撤回してください!」と改めて自分が言った。
自分たちは精一杯な思いで頼むと海藤の父さんはむくっと起き上がり俯きながら口を開こうとした。
その時だった。「撤回してくれんなら、ついでにこれも撤回してくれる?」
廊下の奥で誰かが叫んだ。