父さんの所へ
海藤は自分の表情を伺うように見下ろすと、抱き締めていた腕を緩めて解放した。
だが、自分は恥ずかしくなってまともに海藤の顔が見れくなり、赤面した。
海藤は「いきなり、抱き締められて驚いた?」と自分の顔を見て悪戯っぽく笑って言った。
「俺だって、いきなり泣かれたから驚いた。それで、抱き締めたら泣き止むかもって思って抱き締めた…理由はそれだけだけど、もしかして好きになっちゃった?」
この人は本当に人間として分からないが、学校では猫をかぶっているに間違いなく、家族の事も何も思っちゃいないだろう。この話をしてくれたのもただの雑談だとか言いそうだ。
「そんな事ないよ!…涙だってただ嬉しくて止まんなくなっちゃっただけだし」
「話変わるけど、父親もよく憎まないよな?君って単なるお人好し?」
「違うよ!確かによく言われるけど…」
自分は断言したが、海藤はまだ笑っていたのでムカついた。
自分は「そういえば、今朝父さんが塾に行ってやっぱり辞めさせないでほしいって頼みに行った」と話をこっちから変えた。
「へぇ…そういや、電話で今朝は仕事が忙しいって事で話は夕方にしてほしいって言ってたな。もう今頃、塾で話してんじゃないの?」
「え?嘘?それ早く言ってよ!!」
それを聞くと自分は公園の出口に走り出した。
「おい、どこ行くんだよ!!」
「塾に行くの、決まってんじゃん!!」
「ちょっと待て!」
海藤が慌てて叫びながら自分を追い駆けて来た。
海藤は「俺も一緒に行く」と言った。
自分は何故だろうと思いながらも、走り出した。
「…行っちゃったけど、どうすんの?」
二人が抱き合う間の時間、沈黙になったのは咲希も藤木も一緒で沈黙後に話すのはこれが初めてで先に話し始めたのは咲希だった。
「追い駆ける…」
藤木が話始めたと思ったらその一言目で驚かされた。
「はぁ!?何言ってんの?ストーカーじゃないんだから!」
「じゃあ、さっきのだ、だ、抱き合ってたのはどう言うんだよ」
藤木の動揺さを見てやっぱりさっきの抱き合ってたところが気になるか。
「あれは泣き止むようにって」
「だからって抱き締めるか!?普通!頭おかしいだろ!!」
藤木の訴えには同感だが海藤の話本は本当なのか?気になって仕方がない…。
咲希は「追い駆けるよ」と言った。
「え?」
突然、さっきと言ってた事が違うと思って驚いた。
「ほら、立って!言ったでしょ、あたしは真那が心配なだけだしあんな猫かぶった奴と一緒なんてあたしが許さない」
咲希は言い切った。
その言葉を聞いて藤木もにかっと笑い、立ち上がって「お前の友達思いも半端じゃないな」と言って咲希と笑い合った。
「行こう!」それが合図かのように二人も走りだした。