閑話②〜渡瀬龍彦〜
「…ら!頭!起きてください!龍彦!!」
「うぉっ!」
真司の声で目覚めた。こいつの声で起きるなんて、キツ過ぎる。起きるなら、女の声で起きるのが一番なのに。
「なんだ、真司。」
「既に皆は、目を覚まして外に出ています。親父も早く来てください。」
そう言うと、親父である俺をおいてそそくさと出ていってしまった。アイツは、あの伝説の郷田龍司の息子で、俺以上に組長向きなのだが、郷田家は、近江連合の構成員達に忌避感を持たれており、手を貸したのが親友だった俺だけだったわけだ。アイツは、喧嘩も強いし、人を纏めて適材適所に人材を派遣するのもうまい。それによって組の内情は、アイツによって仕切られていた。うちの組の奴らは、昔ながらの仁義を重視するヤクザだったから、あいつのやり方は、すぐに溶け込めた。そんなあいつが言うんじゃ、仕方ないか…。とはいえ、一応俺のほうが立場上では、上に当たるんだからもう少し優しくしてくれてもいいだろうに。
俺は、そうぶつくさと呟きながら、出口へと向かった。ここを作るときに総司に色々手伝ってもらったが、アイツは無事だろうか…。世界的に見ても大富豪として知られ、兵器関係に通じていたアイツなら、もしもなんてことは起きないだろうが、心配だ。あいつがいないと、俺の東条会再興の夢が叶えられん。
…おっと…?…?俺はまだ夢でも見てるのだろうか?俺の前には壮大に広がる森。確か眠りについたときにはここから高速が見えたはずなのだが、そもそも道路の痕跡すらない。呆然としておる俺のところに真司が近づいて来た。
「親父。」
「…ん?なんだ?」
「これが、入り口に落ちておりました。差出人をご覧ください。」
「差出人…?な!?総司?」
『これを読んでるってことは、起きたんだね?龍彦の兄さん。俺は、そこから約10キロの位置に拠点を築いてるんだ。人手が足りなくて困ってるんだ。手伝いに来てくれるとありがたいな。屋敷を作って待ってるね。追伸:これは、世良の兄貴にも出しているので、急いだほうが良いと思います。おそらく、寝坊してると思うので。施設の前に拠点までの道路の舗装とバイクを全員分設置しておきました。』
まずい、まずい、まずい、まず〜〜〜〜〜い!!
世良の兄貴がもしも、すでに起きていて、すでに出立していたとしたら?俺確実に出遅れたことになる。再興の道も遠ざかることになる。
「親父、何が書かれてたんです?」
「真司、皆を集めろ。すぐに出立するぞ。」
「…は?」
「さっさと動け!」
「は…はい!」
急がなければ…!