第4話 調査
ヘリで空を飛ぶというのは、何度経験しても何にも変えられない幸福感がある。ライト兄弟が初めて空を飛んだときは、こんな気分だったのかといつも思う。
「総司様、何か見えますでしょうか?」
折角、気持ちよく飛んでいたのに余計な一言が気分を台無しにする。マーカスは他のアンドロイドよりも設計により熱を込めてもらった影響からか、所有者である俺を心底大切に感じているようで、時々鬱陶しくも感じる。勿論、善意でやっていることは理解しているし、有り難いがほんの少しでいいから、状況を鑑みるということを覚えてほしい。
「レーダーにはなんか写ってるか?」
俺は、後ろに座っている監察官に聞いてみた。
「いえ、特段何も。あ!鉱山らしき場所があります。場所は、埼玉県秩父市中津川流域になります。」
「それなら、和銅遺跡or小規模鉱山じゃないのか?」
「いえ、大規模な鉱山と思われます。総司様、南東に方角を変更してください。上空に行けば、鉱山内部をスキャンできるかと思います。」
「わかった。」
思わぬ掘り出しもんかもしれん。ここで、鉱山資源が手に入れば、拠点がより強固により充実したものが作れる…と思う。俺は、作らないから知らないが。
それから、10分ヘリを飛ばした当たりで前方に大きな山が見えてきた。あんな山、かつてあっただろうか?
「あれは、なんて山だ?鉱山はあそこらへんにあるのか?」
「あの近くの洞穴にあると思います。あの山は、かつての秩父槍ヶ岳と思われます。」
これが、秩父槍ヶ岳…?それってあれだろ?標高が1300mちょいのそこそこの高さの山。でも、前方に見えるのは明らかに3000m級の山だ。山登りは好きだったから、富士山にも何度も行ったことがあるし、写真も何枚も残ってるが、そんぐらいのものはあるぞ。天変地異or地殻変動で上に伸びたのだろうか?ともかく、俺は、スキャンのため槍ヶ岳の周囲をゆっくりと一周した。
「それでどうだ。鉱山の様子は?史実では、ここらの鉱物は取り尽くしてしまったと言われているが。」
「我々もそう思っていたのですが、どうやら十分過ぎる埋蔵量の様です。やはり、この98年間の間にこの周辺地域で何かあったのでしょう。」
「まぁ、何にせよこれで拠点づくりが進めやすくなったのだから、良しとしよう。このことを司令室のマーカスに連絡しておけ。機を予定進路に戻すぞ。」
「了解です。」
鉱物の埋蔵量がもとに戻ることなんか、現実にあり得るのだろうか?だが、事実、目の前に戻っている鉱山があるのだから、あり得るのであろう。カメラから大規模な嵐があったことは、わかったがそこまででカメラは、ショートしてしまったようなので、それ以降のデータが残っていない。そうこう考えているうちに機は、予定進路に合流し、護衛機とともに探索を再開した。だが、それ以降は特段目立った発見もなく、帰路についた。
ヘリを格納庫にしまい、自室に戻ると他に記録データが無いか、他の記録媒体のハッキング作業に移った。裏社会の組織の連中とつるむ中で、やり手のハッカーからデータの簡単なハッキング方法をレクチャーしてもらった。講義代金として結構な額を請求されたが。まぁ、そいつがその請求の次の日から行方不明になっていることは、今もなお都市伝説となっている。(まぁ、堂々と俺を脅迫してきたので、殺した上で、棺桶に入れてサメの多いポイントに捨ててきたのだが。)
しかし、そんなに都合よく見つかるはずもなく、時間の無駄になった。その後、昼食を食べた後、毎日の出来事を記録に残すため、日記の執筆に取り掛かった。
俺が探索に向かっている間に、マークスは戦闘用ロボと建築用ロボの製作に取り組んでいたようで、いつの間にか核シェルターが取り払われ、工場となっていた。墨俣の一夜城って知ってるかな?豊臣秀吉が世間に初めて知られた史実だ。一晩のうちに稲葉山城攻略のための砦を気づいたという話である。だが、彼らの能力は秀吉よりも遥かに有能である。いや、有能すぎて怖いくらいだ。本当に俺に絶対服従の設定を買取時に盛り込んでおいてよかったよ。何よりも俺を優先するというものなのだが。マークスが言うには、一年もあれば要塞が完成するそうだ。見た目は、日本の城に見えるが、中は違う。敵として一度侵入したら死ぬまで出れない。恐怖の要塞。名前を考えていてほしいとのことだった。
俺が求めていたのは、普通の街なのだが、それを言ったら、それは要塞の外側に来年以降にかけて建築を進めていく予定なのだそうだ。マークスは、俺に依頼を出してきた。要塞を本丸として二の丸、三の丸を築くにあたって、優秀な部下が4人必要であるとのことだった。簡単に言ってしまえば、四天王がほしいのだと。
ただ、腕っぷしが強くて、俺と面識があって、仁義に厚いやつってなると、もう極道しかいない。日本人ならな。暴力団排除条例などによって勢力の縮小や、組の解散が戦争前は多発したが、戦争が激しくなるにつれて、闇市場が増え、暴力団の影響力も次第に回復していった。一応、面子は、考えてある。互いに面識があって歪み合わない奴らで、仁義に厚く、喧嘩の強い極道者。
一人目は、関東一円の極道組織を束ねる広域指定暴力団、東条会の八代目若頭を務めていた日侠連5代目総裁、世良誠である。年齢は、48。俺よりふた周り位年上だが、当時は俺と兄弟盃を交わした間柄だ。なんでそんなことになっのかといえば、初代総裁の世良勝が、凶弾に倒れたことで、一度日侠連は、解散した。しかし、俺の支援のもと再興し、若頭の座に返り咲いた。彼は、俺の支援のことを生涯の恩と考えてくれているようで、目覚めたらもう一度盃を交わす約束をした。喧嘩はまぁそこそこだが、兵隊の数が半端ない。組でシェルターを用意し、全体1200名の睡眠用ポットを用意したという。場所は、把握しているので、来年を迎えたら、まず最初に向かおうと思っている。
二人目は、今度は関西一円の極道組織を束ねる広域指定暴力団、近江連合の十代目若頭を務めていた直参渡瀬組三代目組長の渡瀬龍彦である。年齢は、38。彼でも俺より一回り位年配者である。祖父の渡瀬勝は、七代目近江連合若頭で、直参渡瀬組初代組長。刺青は背中に阿修羅、右腕に輪宝と左腕に独鈷杵。「強い奴と喧嘩がしたくてヤクザになった」と豪語するほどの武闘派であり、郷龍会亡き後の近江連合を支え続けた実力者である。渡瀬龍彦も、祖父に引けを取らない武闘派で、激闘の時代の中で、勢力を拡大させ続けた実力者だ。俺との関係性は、ある事件をきっかけに拳銃やドスの調達、資金面での支援などを行っていたパートナー的存在である。因みに世良誠とは、互いの俺との関係性から五分の盃を交わした間柄である。こちらは、都内に総員を連れてきて、事前に準備していたシェルターに避難した。兵隊の数は、800名。
三人目は、ちょっと心配。日本語は堪能なんだけど、純粋なアメリカ人。
以前、東条会と揉めたことで、中心的存在であったアンドレ・リチャードソンが殺されたことで、勢力を大幅に縮小していた武器密売組織のブラックマンデー。その、ボスの座についていたアルメリア・リチャードソンである。名前からわかるように女性であり、年齢は、24。俺と同世代である。なんで、こいつがいるのかといえば、元彼女…ってことではない。自分の貿易会社を立ち上げて、覚せい剤とか武器とかの販売を世界で行っていたところ、アジアでの新たな市場の確立に一枚噛んでもらった。勢力は弱かったものの、先々代のアンドレの影響力は、当時も健在で、たいへん役に立った。兵隊の数は、100人と少ないが、皆武器のプロフェッショナルだ。経営の支援と生活の保証、組織の再興を手伝うことを条件に俺に中世を誓った。でも、日本での活動には、ブラックマンデーだとやりにくいとのことで、改名した。『黒月会』そのまんまじゃねぇーか!って言ったが、彼女以外は、ブラックマンデーに未練たらたらだったので、そこが落としどころだったようだ。
四人目は、これまでの三人とは全く異なる。なぜなら、極道者でも、裏社会の人間でもない。當眞昌洋と當眞幸隆である。二人じゃねぇかと思われると思う。俺の友人は當眞幸隆だ。彼の父親である當眞昌洋は、当時、防衛大臣と総理大臣を務めた人物で、最年少の総理大臣として日本国民から慕われている。病気の影響もあったが、任期満了まで国民からの支持率は驚異の80%と、異例の数字を叩き出していた。そんなクリーンそうに見える政治家の息子と俺にどんな関係があるのかといえば、別に裏金とかそういうのではない。彼も父親と同じ道を選び政治家となったが、大学生活で一緒だった。世界大戦の中の激動の時代だったが、直接的に関係していなかった日本は、アメリカと距離を取り、中立を保った。アメリカからは非難されたが、国際連合での協議のもと、他国の避難先を用意することで、中国、ロシア、北朝鮮が全力を持って保護することを約束し、平和条約、不可侵条約を結び、北方領土や尖閣諸島を日本へ返却することで同意した。彼は、その条約を結ぶために外務大臣に任命されたが、ほぼ押し付けであった。俺は、当時各国の裏社会と太いパイプを持っていたため、総理大臣であった當眞昌洋は、息子である當眞幸隆を守るために、俺と盃を交わした。彼とは、裏取引をした。幸隆にはその話はせず、護衛として、友人として、条約締結後もよく飲んだり、遊んだりしたものだ。政治家なので、兵隊はいない。その代わり、護衛として雇われていた傭兵が50名程度いた。(途中で、反抗してきたのでそいつらは殺して、記憶と顔はそのままにアンドロイド化したことは、彼には秘密である。)
この四人は、それぞれが、個人シェルターを保有しており、そのどれもが俺のシェルターから地下通路を通って向かうことができる。来年を迎えたら、まず最初に彼らを迎えることになるだろう。