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シスターメイリス

昔のクレイフォール孤児院でのキキとメイリスの回想話です。

―――あれ?ここは……昔のクレイフォール孤児院?


「――………ぃ、……おい!キキ?聞いてんのか?」

「はは、ほっとけって!どうせメイリス以外とはしゃべらないんだぜ。」

「なんか言ってみろよ!」


そう言って、アタシの頬をつねるのは、一緒に孤児院にいた男の子べルタ。

横にいる全く興味がない様子の男の子はロンだ。


アタシは、ベルタが苦手だった。彼は自分がアタシより上なんだぞと誇示しているように毎日のように突っかかってくる。

そういう時はうつむいて、ずっと黙った。

見かねてベルタは手を出してくるが、その時にはメイリスが止めに入ってくれていた。


「ベルタ。女の子にそんなことしてはなりません。前にも言ったでしょう。」

「………メイリス。」

「ちっ。俺はキキが畑に入ろうとしたから、勝手に入ったらいけないんだって言ってただけだ!」


そう言うと、ベルタとロンは走り去っていった。

メイリスはキキと視線を合わせるように、しゃがんだ。


「……メイリスごめんなさい。ベルタは悪くないの。でもアタシうまく声が出なくて………。」

「キキ、ベルタは別にあなたのことが嫌いではないのです。いつも私の側か一人でいるキキを見て、心配なんでしょう。それはキキ、あなたもわかってあげてね。」

「うん。」


返事を聞いたメイリスが、キキの頭を撫でる。その手はとても暖かく懐かしい匂いがした。


―――辺りがぼやけ、次は孤児院が立ちゆかなくなった頃の近くの農家だった。


そうか、アタシもう死んじゃったのかな?だから今までの事思い出してるのかな?

そう考えてみた時、確かに色彩は薄く曖昧で、話声もふわふわとしている。


「ルルちゃん、やっぱりダメだよ。メイリスが泥棒はいけないって。」

「サーシャは意気地なしね。バレなきゃいいのよ。この間だってバレなかったじゃない。」

「キキちゃん、ルルちゃんを止めて。」

「………ルル……ちゃん。…嫌な予感がするの。」

「何がよ!」


トウモロコシが生い茂った中で三人が小声でもめる。

正義感が強くて、ルルを止めようとしている女の子はサーシャ。気が強く男勝りな性格の女の子はルル。

この頃には、メイリスの協力もあり二人とは、多少なり距離が縮み一緒に遊ぶようになっていた。


懐かしいなぁ、ルルちゃんもサーシャちゃんも元気かな。ごめんねアタシはもうきっと二人に会うことはできないんだろうな。


農家の小屋の方から、犬の吠える声が聞こえだした。すごいスピードで近付いてきている。


「っ!!逃げるわよ!」

「え!?あ、待ってよ!ルルちゃん!」

「………。」

「ちょっと!キキ早く走りなさい!」

「………こ、こわくて……足が!」


犬の声にビックリしたのと、このままだと噛まれて血がいっぱい出るのではないかと怖くなってしまい、気持ちとは裏腹に身体は動かない。


「もう!!サーシャ!アンタは逃げなさい!」

「え!?ルルちゃんは?」

「仕方ないでしょう!キキを放っておけないんだから!」


その言葉を聞いて、サーシャの身体は逃げるのを諦め、アタシの前に立ち塞がる。


「アタシも!キキちゃん守りたいもん!」


次の瞬間トウモロコシ畑をかき分けて、大きな犬が飛び出してきた。

大人からするとそんなに大きい犬ではないが、アタシたち子どもからするとそれはとても大きく感じた。


「あっちに行きなさい!」


いつの間にか近くのトウモロコシを根っこごと引き抜いたルルがそれを振り回している。アタシとサーシャは犬のあまりの大きさに声を失い、お尻が地面から離れなくなっている。


「この!このっ!どっか行け!」


半べそを掻きながらルルが一生懸命トウモロコシを振り回すが、犬は全く動じずアタシたちの周りをくるくると回りだした。

その様子を見ていたアタシは、ふと気が付いたように犬の顔をみた。


「この子……怒ってない。たぶん……心配してる。」

「何言ってるのよ!どこから食べようかってアタシたちの周りうろうろしてるじゃない!」

「ううん…この子は優しい子だよ。」


アタシは、手を前に出した。そうすると犬は一度顔を地面に近づけ地面の匂いを嗅ぎ、再度顔を高く上げる。

その後、その犬はアタシの掌を舐め、次に頬を舐めてきた。


「ふふ、くすぐったい。」


はぁ~っとため息をつき座り込むルルを見て安堵しアタシは、その子を撫でていた。

ガサガサと音がし、農家の主人らしき人がやってきた。


「おや?孤児院の子かね?ほほ、ダンが懐くなんて珍しいのう。まぁ、もう日も落ちてきたから、帰りなさい。」

「キミ、ダンていうのね。」


ダンは、キキに名前を呼ばれると嬉しそうにワンッと返事をした。


「ところで、そこのお嬢ちゃん。そのトウモロコシはもって行きなさい。」

「あ……。」


ルルは自分の手に持った根っこ付きトウモロコシを見て、顏赤らめるのだった。

アタシを助ける為とはいえ、トウモロコシを根っこから抜いた力は子供にしてみるとすごいことだ。それだけ必死にアタシを守ろうとしてくれた、ルルとサーシャをさらに心を許すきっかけになった。



――三人が孤児院に帰るとメイリスが孤児院の入り口の前で待っていた。


「日も落ちたのに、いつまでも外で遊んでるのはダメですよ!……あら?そのトウモロコシ。………はぁ」


メイリスは何か察したようにため息をもらし、そのまま農家の方へ歩いて行った。


「いいおじちゃんだったね。」

「今度ダンに会いに行こうかな。」

「あ、あ、アタシは遠慮しとくわ!」


アタシとサーシャは、また遊びに行くのを楽しみにしてたのに、あまりに恐かったのかルルには少々トラウマになったようで引きつった表情をみて、アタシとサーシャは思わず笑ってしまった。



――その後、しばらくするとメイリスが帰ってきた。


「ルル、サーシャ、キキ。もう人の畑に入ってはいけませんよ?」

「「「はい、ごめんなさいメイリス。」」」

「ふふ、三人は賢いわね。私の自慢の子供ですよ。……あ、農家の方が遊びに来るなら堂々とおいでって、ダンも喜ぶからって言ってたわ。よかったわね。」


そう言うと、メイリスはアタシたち三人を優しく抱きしめてくれた。


………メイリス……アタシももうすぐそっちに行くからね。



―――ここは…。


一番アタシの記憶に刻まれているあの時の場面。ベッドにはメイリスが苦しそうに横たわっている。

部屋のドアの横にはギールが居た。


「キキ、…行かないのか。」

「っ………。」


今自分がなにもできない悔しさと最愛の人が苦しむ姿をただ見ていることしかできないアタシは、こぼれ落ちてくる涙を拭うことしかできなかった。でも、ここを離れることなんて考えていなかった。


「そうか。…一応、医者は明日の昼に来れるそうだ。………すまないがそれまで…メイリスを頼んだ。」


そう言い残して、ギールは他の子たちの身寄りを探す為、出て行った。

静かになった部屋に、メイリスの苦しそうな息づかいとアタシの泣く声だけが残った。


その夜、メイリスの様子が落ち着いた時にアタシに話してくれた。


「キキ、…ごめんなさいね。………あなたに言わないといけないことがあるの。」

「メイリス、せっかく落ち着いてるのに話しちゃダメだよ!明日お医者様が来るから休ん―」


話を遮るように、メイリスがアタシの手を握り、ゆっくり首を振った。そしてメイリスは話し始めた。アタシの母の事、父の事、アタシが母親に似ていること、アタシが父と好きなものが似てること、母と父が結婚した時のこと、アタシが生まれた時のこと………そして母と父が死んだこと。


「キキ………ごめんね。こんな時になって今更………こんな、ゴホッ……。」

「メイリスいいの!アタシはメイリスが居てくれれば!だから………だから………」


そういうとメイリス優しく微笑んだ後、大きく息を吸い込みまた眠りについた。

アタシもメイリスの手を握ったまま、メイリスの横で泣き疲れて眠りについていた。



――朝、アタシが起きるとメイリスはアタシの手を握ったまま、動かなくなっていた。

握ったアタシの手の体温を奪っていくように、その手には、あの時の暖かさはもう無いんだと痛感させられる。


「ママ、パパ、メイリス………どうして………。」


アタシの周りにいてほしい、最愛の人たちはいなくなってしまう。

いなくなって、怒られた思い出さえより一層愛しく思えてくる。そう思うとアタシの運命をただただ恨むしかできなかった。



――昼を過ぎた頃、医者が見えたがメイリスの状態を見るなり、「すまないね。」と言い残し去っていった。

これからの事なんて何も考えられない。どうすることもできない。


その夜、ベッドで横たわったメイリスに添い寝するようにアタシは一緒に横になった。


「メイリス………アタシはこのままあなたと一緒にいられるなら………死んでもいいのかな。」


帰るはずのない返事をアタシは待った。

決して変わることのないメイリスの横顔を寝転びながら見ていた。


その時、メイリスの目から涙が一粒流れ落ちた。


「メイリス!?………。」


藁をもすがる気持ちでメイリスを揺する。冷たい、その冷たさが非情ににもアタシの心を折る。


「ふっ………っぐず………うぅ………。」


そのままアタシは自分の涙を止めることはできなかった。

でも、きっとメイリスの涙は、アタシに死んではいけないと言ってくれたんだと思った。


――次の日の朝、アタシはメイリスを埋葬することにした。

十歳の子供にとっては大変なことではあるが、土を掘っている間は気がまぎれるような気がした。

メイリスを埋める為の大きさの穴ができたのはすでに日が沈みかけていた。


メイリスを抱きかかえる力はアタシにはなく、背中に乗せメイリスの足を引きずるようにして運んだ。


「ごめんなさい。………ごめんなさい。」


足を引きずったせいで、メイリスの足は傷だらけになっていた。

死んでからも痛い思いをさせてしまったことにアタシは、ずっと謝るか泣きじゃくるしかできなかった。


墓石になるような大きな石は持てない、代わりに小さな小石を並べ、小さな花で花冠を作った。

夜にはメイリスをようやく休ませてあげることができた。

アタシはしばらくメイリスのお墓の前でメイリスが微笑んで頭を撫でてくれたことを思い出していた。


その次の日、ギールが帰ってきてメイリスの墓に手を合わせた。


「すまなかったな。………ここにいてもダメだ………行くぞ。」

「………。」


アタシは返事無く、孤児院をあとにギールの後ろをついて行った。


「ありがとう。………メイリス。」


そのかすかな声は、優しい風に包まれて消えていった。

キキもだけど、身寄りを探す為、離れ離れになったルルやサーシャも気になるところ。

次回もお楽しみに。─=≡Σ((( つ•̀ω•́)つ

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