やっと会えたな。
「―――……この子を頼みます。」
「アリス、いいのですか?あなたならここを切り抜けられるのではないですか?まだキキちゃんも1歳になったばかりでしょ?」
アリスは小さく首を振り、シスターのメイリスに抱えていた女の子を託した。
「切り抜けたとしても、私達が捕まらない限りこの争いは幕を引いてくれません。だから、この子が助かるのなら私は命を懸けてでも守りたい。でも……必ずまた会えるから。」
アリスの出した手の人差し指を、キキが握り、無邪気な笑顔を見せる。
「またね。生きて……。」
頬にすうっと涙が流れ、別れを惜しむように三歩後ずさるようにして振り返り、夜の闇にアリスは消えていった。
―――いたぞ!
闇の中で、兵士がアリスを見つけた声を上げた。
無数の足音が声の方に向かっていくのがわかる。
「アリス=ゼルフィーナ!お前達には、国王より世界の脅威であるとし、ここで処刑する!」
「…私はこの世の脅威などではありません。魔族を滅ぼした今このような争いをするのは――」
「うるさい!お前のような化け物は我々とはともに共存などできん!」
アリスの言葉を遮るように複数の兵士たちがアリスに襲い掛かった。
――ガキーンと剣を弾く音が響くと、アリスの前に一人の男が現れた。
「お前はフィン=ファイネン!処刑対象がわざわざ出向いてくれるとはな。あとは処刑するだけだ!」
いつの間にか、兵士がさらに増え100人以上になっている。
「すまない。遅くなった…準備に思ったより時間がかかってな。キキはメイリスに?」
「ええ、もっと一緒にいたかった……でも仕方ないよ。」
「そうか。……そうだな、予定通りここで一度俺たちは幕を閉じよう。…今までもこれからも愛してる。」
「ふふ、こんな時でもいつもの調子なんだね。本当にもう、まったく。」
ため息を漏らしながらアリスはフィンと目を少し合わせ、そして目を閉じながら完全に棒立ちになった。
「観念したようだな。やれっ!」
複数の兵士が剣を構え、そして二人を無数の剣が貫いた―――。
「二人で魔族を滅ぼすほどの力だ!放っておいてはこの先の火種になるのは目に見えている!悪く思わんでくれよ。」
「アリス、……頼む。」
「くっ…。」
血だまりができ、あまりの痛みになかなか魔法を使えないアリス。
「うぅ!…はぁはぁ。…再誕継承。」
なんとかアリスが魔法を発動した。
すると、アリスとフィンの身体が光りがはじめ周囲をまばゆい光で包み込んだ。
「なんだ!この光は!くそ!やれ!息の根を止めろ!」
乱暴に剣を振り下ろしまばゆい光の中で、兵士たちが目を眩ませながらアリスとフィンを突き刺した。
しばらくすると、光がおさまりアリスのフィンの姿が現れた。
二人とも既に死んでいる。その姿は二人は指を絡め手を繋ぎ安らかな顏をしていた。
あれから、10年が過ぎ―――
貧困の差が激しくなるにつれて、クレイフォール孤児院もたちゆかなくなってしまった。
メイリスは、子供たちの為に仕事を重ね、ついには病に倒れてしまった。
孤児院にいた子供たちは、メイリスが倒れたことによりこれ以上ここにいても飢え死にすると、一番年上だったギールが、他の子たちを連れて出て行ってしまった。
しばらくして、メイリスは病により息を引き取った。
最後まで側にいたキキであったが、結局何もできなかった。
ただただ、冷たくなったメイリスの側で泣いた。
「ごめんなさい。…ごめんなさい。」
身寄りのなくなったキキは、見知らぬ夫婦の家に引き取られたが、
そこでは十分な食事も与えられず、働きに出され、賃金はすべて夫婦に徴収された。
夫婦の男の方は、朝から晩まで酒を飲み、目が合うとキキに酒瓶を投げつけ、おなかを蹴り上げた。
「うぐぁっ…。」
「なんだその目は!ここに置いてやってるんだ!感謝しろ!フン、ガキが親の顔が見てみたいぜ!」
うずくまったキキを知る目に、また酒飲み始めた。
夫婦の女は、ほとんど家におらずたまに帰ってきては男の性欲を発散し、酒と金を置いて行った。
キキに対しては、物を見るような態度で全く干渉しなかった。ほとんど男との生活で日々苦痛と空腹に耐えながら過ごしていた。
「うぅ…ぐすっ……メイリス……ふぅぐっ……メイリス。」
過酷な生活が、母のように慕っていたメイリスへの恋しさをより増幅させていた。
「ぐすっ……メイリス。……ママ。」
キキの母は10年前に死んだ。しかし、今は亡きメイリスや母に藁をもすがる気持ちにその小さな胸がいっぱいなり苦しくなるのであった。
引き取られて数日過ぎた時、男に何度も蹴られたお腹が赤黒くなり、すでに意識が朦朧としていたキキを男は担ぎ上げ森の奥へ運んだ。
「働けない奴ぁいらねぇんだ。ここなら誰も来ねぇ。ここで死んでもらう。」
「…。」
殺される。そんなことはどうでもいいキキは、「やっと終わるんだ。」という安堵に満たされている。
男が近くの石をもってキキの頭に殴りかかろうとした瞬間だった。
――生きて。
決して覚えのない、いや懐かしい声が聞こえた。
「うあああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!ママ!ママ!ママああああ!!!」
キキが叫んだ瞬間、パンッ!!と破裂するような音とともに男の姿はなく辺りに血しぶきが飛び散っていた。おそらく男の血だろう。
意識が朦朧としていたキキは、ふっと意識を失った。
こんな夜中の森の奥だ。人なんて来るわけないし、肉食の獣だって出るようなこんなところに助けなんて来ない。意識を失ったキキの命運は尽きるかと思われたその時だった。
「かなりの魔力を察知したから来たら、そうか…やっと会えたな。にしても酷い惨状だな。」
っと、キキとほぼ同じくらいの少年が助けに来たのだった。
「カイジャン。」
少年がそう言うと、暗闇からすぅっと執事が現れた。
「カイジャン、この子の手当てを。」
「クロン様その子は?」
「ああ、……娘だ。屋敷へ頼む。」
「畏まりました。」
そう言うと、カイジャンはキキを抱きかかえスッと消えた。
「……ごめんな。…遅くなって。」
クロンと名乗る少年は、その惨状を見ながら拳を握りしめた。
初投稿です。
まだまだ未熟ですが、ペースは遅めですが続き頑張ります(´っ・ω・)っウィー♪