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夫と価値観

お越しいただきありがとうございます。

 そこまで考えて私は、子供がほしいなら、流産回避の前にまず考えておかなくてはいけないことがあることに気づいた。


 それは、「そもそも、将来子供を望まなくなるとわかっている幸翔(ゆきと)と、タイムスリップ後の世界でも結婚するかどうか」という問題だ。


 大っぴらに口に出すのは恥ずかしいけれど、私は幸翔(ゆきと)のこと好きだ。彼を愛している。当然と言えば当然だ。好きだから7年もつき合ったのだし、結婚したのだから。


 幸翔(ゆきと)はとても良いやつなのだ。

 流産を経験したばかりの女性(私)に対して、「俺、今日食べすぎちゃったから、妊婦さんみたいな腹になっちゃったよ」とか言っちゃうような、デリカシーのないやつではあるけれども。


 私が体調を崩した時、少しでも食べれるようにと、スープを作ってくれたこと。

 誕生日や記念日には、私を喜ばせようと、一生懸命あちこち調べてプレゼントをくれたこと。

 ほんっっっっとうに稀なことだけど、お風呂掃除や食器洗いを手伝ってくれたこと。

 成功率60パーセントの私の料理を、失敗しても全部食べてくれて、成功したら、褒めてくれるところ。

 私が落ち込んでると、よしよしって頭を撫でてくれるところ。

 毎日朝早くから終電逃すくらい遅くまで働いているのに、休日にも資格取得のための勉強に取り組んでいるところ。

 けんかをしても、感情的になって怒鳴ったり手を上げたりしないところ。

 好き嫌いしないで、何でも食べるところ。 


 妊娠でつわりがひどくて、私が実家に1ヶ月くらい帰っていた時も、毎週休みの度に顔を見に来てくれた。

 貴重な休日に毎週嫁の実家に行くなんて、気を遣うし億劫だし、なかなかできないことだと思う。 


 幸翔(ゆきと)の笑顔が好きだ。決してイケメンではないけれど(好きならイケメンと言ってあげるべきかもしれない)、くしゃっと笑った顔がとってもかわいいのだ。


 そう、私は幸翔(ゆきと)が好き。好きだけど。


 小学5年生から人生をやり直せるということは、結婚相手を選びなおせるということでもある。

 将来、幸翔(ゆきと)が子供を望まなくなると知っていても、もう一度彼と結婚するかどうか。


 私達には、子供うんぬん以外でも、価値観の違いがたくさんある。

 私と幸翔(ゆきと)は2人共、独身時代は実家暮らしだったし、同棲はしなかったから、いざ結婚してから、お互いの価値観や生活習慣の違いにびっくりしたり、戸惑ったり、困惑したりしたことが多々あったのだ。


 私が朝型で、幸翔(ゆきと)が夜型だとか。

 私が暑がりで、幸翔(ゆきと)が寒がりだとか。

 月々の貯金額。

 外食の頻度。


 私は、外出時には家族に一声かけてから出るのが当たり前だと思う。

 一方幸翔(ゆきと)は、子供じゃあるまいし携帯もあるのだから、ふらっと外出して何が悪いと思う。


 私はなるべく栄養を考えてご飯を食べたいけれど、幸翔(ゆきと)はご飯の代わりにお菓子やお酒でお腹をいっぱいにして何が悪いのだと言う。


 私は脱いだ服を洗濯かごに入れたり、スーツをハンガーにかけたりしてほしいけど、幸翔(ゆきと)はどうせ毎日着るものをハンガーにかけるのは無駄だと言う。


 ひとつひとつは、とても小さいこと。

 でも、つき合っていた7年もの間、全くけんかなんてしたことなかった私達は、結婚してからの1年だけで、数え切れないほど何度もけんかをした。

 それらは全て、極端なことを言ってしまえば、私が彼に全面的に合わせてしまえば、解決する話ではあったのだけれど。


 子供を望むか望まないかという点だけは、譲れない。私は子供がほしい。 

 

 子供がほしいかほしくないかは、夫婦関係を続けるにあたって、重要な価値観だ。

 それこそ、人によっては離婚問題に発展するような。

 幸翔(ゆきと)に、子供はほしくないと言われてしまうのがわかっている以上、もう一度彼を選ぶのには躊躇してしまう。子供を持てる可能性を捨てたくない。 


 だが、じゃあ別の人と結婚しよう! とさっさと割り切れないのは、なんだかんだ、私が幸翔(ゆきと)のことを好きだから。

 同居してから初めて気づいた価値観の違いは、たくさんあるけれど、それでも私は彼のことが嫌いになったわけではない。


 7年も8年も一緒にいたのだ、情に流されているのかもしれない。

 でも、結婚式はしなかったけど、これでも市役所に婚姻届けを出しに行く時は、「健やかなる時も病める時も」、この人と一生添い遂げると腹を決めたのだ。それを、簡単に投げ出すか?


 それに、好きな人の子供だからほしいのであって、子供が産めれば何でも良いわけではない。


 まあ色々偉そうに言っているけれど私、人生を振り返ってみても全然モテなかったし、何なら男の子の友達もほとんどいなかった。私にとって幸翔(ゆきと)が初彼氏にして最後の彼氏で、唯一の旦那様なわけで、幸翔(ゆきと)以外の人と結婚しようとしたところで、独身のまま終わりそうな気もするけれど。


 いっそ、私も幸翔(ゆきと)も子供を望んでいるけれど、私か幸翔(ゆきと)のどちらかが子供ができない身体だったのなら、諦めがついたのかもしれない。

 不妊であっても、夫婦で子供を望んでいるという点で一致しているのであれば、養子をもらうという手もないわけじゃないし。まあ実際に行動に移すとなると、簡単にはいかない話だけど。


 ただ、幸翔(ゆきと)が子供はいらないと言い出したのは、最近の話だ。

 結婚したばかりの頃までは、子供は何人ほしいとか、男なら女ならとか、名前はどうするとか、どういう教育方針でとか、そんな話もしていた。

 親戚の子供もかわいがっていたし、子供が嫌いとか、そういうことではないと思う。


 ただ、しばらくは共働きでいる予定だったのに、私が妊娠して仕事をやめたことや、思いのほかつわりがひどくて、具合が悪かったこと、最終的に流産してしまったことを通して、親としての責任やお金の心配をしたり、子を喪ったことへのショックがあったりして、その結果、子供はいらないという結論になったのではないか。それにあの頃は、幸翔(ゆきと)も仕事が忙しくて、月に何日も徹夜で会社に泊まり込みで働いたりしていたから、自分は育児に参加できないことを気にしたのかもしれない。

 母親になる私がマタニティーブルーになる前に、父親になる幸翔(ゆきと)がそういう症状になった。そういう部分もあるのかもしれないと思うのだ。


 もしそういったことが理由ならば、つき合っている時や結婚生活の中で、幸翔(ゆきと)が子供をほしくないと思わせないように私が行動すれば、何とかなるかもしれない。


 「愛」とは、その人の幸せを願う気持ちであり、その努力の大きさこそが愛の大きさである。

 何かで読んだ言葉だ。

 

 愛している人の幸せを望むというよりは、自身の幸せのために相手を変えようとしている私は、間違っているのだろうか。


 でもじゃあ、幸翔(ゆきと)が子供を望まないからと、私がそれに合わせるのが、本当の愛なのか。

 そんなことを言ったら、幸翔(ゆきと)が私を愛しているなら、私の意を汲んでくれても良いとは思わないか。

 幸翔(ゆきと)は私のことを愛していないと言うのか。

 

 ……そんなことを考えてしまうのは、私が見返りを求めた愛し方をしているからなのだろうか。

 わからないわからないわからない。


 悩んでも悩んでも。

 幸翔(ゆきと)との結婚をやめようとすると、これまでの2人の思い出や、彼の良いところばかりが浮かんでしまい。

 やっぱりまた幸翔(ゆきと)と結婚しようと思うたびに、幸翔(ゆきと)が「子供はほしくない」と言った時の顔がちらつき。

 妊婦健診でお腹の子がすでに亡くなっていると告げられた時のことや、近所で親子連れとすれ違うたびにうらやましくてガン見してしまったことまで思い出して。

 それでも結局私は、幸翔(ゆきと)のことが好きで、彼の子がほしくて、彼と私達の子の3人で幸せになりたいのだと、再認識してしまうのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。

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