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門限

「ごめん、私、もう帰らなきゃ」

放課後、久々にさっちゃんと朋ちゃんと近所の公園で遊んだ日。

 時刻は16時45分、まだ防災行政無線の帰りのチャイムも鳴っていないのに、私が帰ると言い出したので、

「えっ、もう?」

朋ちゃんが怪訝そうな顔をする。

「あ、そっか、香耶(かや)んちは門限、ちょっと早いもんね」

つき合いの長いさっちゃんはうんうんと頷いて、

「また明日ね~」

とあっさり手を振る。

「うん、ごめんね、ばいばいっ」

私も2人に手を振って、自転車で家へと急いだ。


 今は10月、防災行政無線の帰りのチャイムは17時なので、私は17時には家に「着いて」いなければならない。だから、友達と遊ぶ時は、腕時計必須。この頃は携帯も持ってなかったし。

 周りの友達は、チャイムが鳴ったら「家に向かう」という家が多いので、私はそんな友達より早めに帰途に就く必要がある。

 子供の頃は、結構辛かったなあと思い出す。

「皆がまだ遊んでいるのに、ひとりだけ先に帰る」っていうのは疎外感を感じてしまうし、急いで帰っても1分でも遅れると厳しく叱られたし。

 まあ、同じ遅刻でも叱ったり叱らなかったりなんてしてたら、しつけにならないけど。


 それはともかく、無事に16時55分に家のリビングに到着。5分余裕があったな、もう少し公園にいられたなと思わなくもないけど、あんまりギリギリを狙うのもリスキーなので、やっぱり15分前に公園を出てきて正解だったかなと思う。


 というのも、我が家において、「家に着く」というのは「家のリビングにいる」ということだ。たとえ庭や玄関にいたとしても、17時までにリビングにいなかったら、それは帰宅とみなされない。

 もちろん、帰り道で信号が変わらなかったとかトイレに寄ってたとか、そういう言い訳も通用しない。

 だから、確実に門限を守って家に帰るには、時間に多少の余裕を持つことが大切なのだ。焦って交通事故にでも遭ったら大変だしね。


 ちなみにこの門限制度は、弟に関しては男だからか、高校生頃からかなりゆるくなったけど、私と妹に関しては、大学生の頃まであった。

 ちなみに22時。家から大学まで2時間弱かかる距離だったし、ちょっと遠出したり飲み会行ったりすると、すぐ時間になっちゃうし、そもそも大学生にもなって門限がある家っていうのはかなり少なかったから、大変だったっけ。もっとも、22時までアルバイトのある日とかは、例外的に許してもらえたりとか、結構融通利いたけど。


 幸翔(ゆきと)の家は門限なんてなかったから、大変だったっけ。

 まだ結婚する前、つき合っていた頃のことを思いだす。

 デートでどこへ行っても、絶対に22時に家に帰っていなければならなかったため、21時40分頃には私の最寄り駅でバイバイする必要があったのだが、毎回のように帰る時間が早いって文句を言われていた。


 門限を破ると冗談抜きに、友人だろうと彼氏だろうと遊びに行くのを禁止されたり、私の親の幸翔(ゆきと)に対してのイメージがマイナスになる可能性があったので、そう説得して私は門限を守り通したのだけれど、幸翔(ゆきと)はどうして1分でも遅れちゃダメなのか、最後まで理解できなかったらしい。


 まあ、理解も共感もできなくても、私の門限厳守に協力してくれたのは確かで、そこは感謝しているけども。というか、協力してくれないのならばおつき合いは不可能だったわ。


 とりあえず、夕飯までに時間があるので、宿題に手をつけることにする。いつもは宿題は帰ったらすぐやるのだけど、今日は学校から家に帰って、ランドセルを置いてすぐに遊びに行ったため、まだやってなかったのだ。

 子供部屋では弟がゲームをし、妹が歌を歌っていて、賑やかなことこの上ないが、いつものことなので気にしない。


 自分の勉強机で、算数のノートを広げていると、

「何でドア閉まってるんだ~? 開けとくぞ~?」

と祖父がノックもなしで入ってきて、子供部屋のドアを半開きにしてからリビングに戻っていった。

「テレビがうるさいから閉めといてよ」

と言ってみたが、

「開けておくもんだ」

の一点張りで、聞きやしない。意味わからん……。


 うちのリビングは、子供部屋のドアを開けてすぐのところにある。しかも、祖父は耳が遠いので音量が大きめだ。予想通り、リビングからテレビの音が聞こえてきて、さすがにイラッとする。

 まだ小学生の弟や妹は、多少騒がしくしてても仕方がない。そもそも2人が子供部屋で遊んでいるのも、リビングで騒ぐと母が家業の仕事依頼の電話を取った時に支障が出るから、それに配慮してのことだし。 

 でも、祖父は孫の私が「テレビがうるさい」と言っているのを少しは気にしてくれても良くない? しかも、ドアを開けておかなくちゃいけない理由が、わかんないし。


 昔からうちの家族、祖父に限らず父も母も祖母もだけど、子供部屋のドアが閉まっているのを嫌う傾向があったのよね。

 閉めてると、よく「何で閉めてるんだ」って言われて開けられたっけ。

 ほんと、何でなんだろ。開けるならせめて、開けなくてはいけない理由を教えてほしいもんだよね。あと、テレビを消すか音を小さくしてほしいものだよね。

 このドア半開きの儀式、大学受験の頃もやられて、テレビの音にすっごいイライラしたっけ。


 幸翔(ゆきと)の家は、子供部屋どころか、幸翔(ゆきと)と弟の健翔(けんと)くん、それぞれひと部屋与えられていて、当然ドアはしっかり閉めるし、何なら鍵もついてて、用がある時はノックどころか、各部屋の内線(中学生からは携帯)で呼び出す方式だったらしい。


 私が中学に上がる頃にやっと男女で別れたけど、それまでは3人でひと部屋、ノックどころか部屋のドアを閉めることすらおちおちできず、鍵なんてもちろんないし、ひとり部屋なんて夢のまた夢だったうちとは、大違いだ。


 プライベート? 何それおいしいの? 状態で育った私と、完璧すぎるというかそこまでする? レベルの完全プライベート保護されて育った幸翔(ゆきと)

 

 結婚していた時に幸翔(ゆきと)は、やたらひとりになりたがって、自室にこもってしまうことがあったっけ。で、私がその部屋に入ると、びっくりするくらいキレられたものだ。

 自室っていうか、唯一タンスと押入れのある部屋に、幸翔(ゆきと)が机とパソコンを置いて、自室扱いしてただけなんだけど。

 賃貸だったし、洗面所、トイレ、浴室、キッチン、リビング、寝室を抜いたらその部屋しかないのに、しかもその部屋に私の服も置いているのに、その唯一の部屋を幸翔(ゆきと)の自室にされてしまって、私の自室がないじゃない! って憤慨したっけ。


 つくづく、生活習慣が正反対の人と結婚したものだなあ。

読んでいただきありがとうございました。

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