食生活
「香耶、えらいわね。最近、好き嫌いが減ったじゃない」
夕飯の時、母に褒められて、私はむずがゆい気持ちになった。
子供の頃の私は、好き嫌いが多かった。いや、大人になっても全然直ってなかったけど。でも小学生の頃までは本当にひどくて、白米にふりかけしか食べなかったりしてたくらいだからね。
まず、海のものが全般的にダメ。魚も貝も、カニとかイカもエビも嫌い。特にお刺身とかお寿司とか、生のもの。生ものがダメって言うと、「人生、損してる」とか言われるけど、損してて良いです、ほんと。
続いて、キノコ全般。香りと触感が苦手。
野菜だと、ナスとゴーヤがダメだった。ゴーヤは苦いからだけど、ナスは何で嫌いだったんだろう? 大人になってからあっさり克服したから、よくわからない。
お肉は好き。あ、でもラムとか、家庭料理で見かけないような種類の肉はダメ。あと生肉もダメ。
炭酸も苦手。子供の頃は、お友達の家で出されるジュースが炭酸のことが多くて、よく困ってた。成人してからは、飲み会の時にお酒のチョイスでよく困ってた。
大人になってからも、正直嫌いなものは嫌いなままで、克服はできていないけれど、一応子供じゃないので、人生2回目中の今は、出されたものは食べていた。
流産の経験もあって、栄養バランスの良い食事を取れるように気をつけるようになったというのもある。
思い返せば、小学生の頃は何をどれだけ言われようとも、嫌いなものは絶対に食べなかった。そんな娘が、今まで食べなかったおかずも突然食べるようになったものだから、母から見たら、娘が急に好き嫌いを克服したように見えたようだ。
母お手製のロールキャベツを食べながら、私は思う。
嫌いな食べ物ばっかりだった私と比べて、幸翔は嫌いな食べ物はなかった。
えらい。
食の好みも、私と幸翔では全然違った。
幸翔は、私の嫌いな刺身やらウニやらが好きだった。デートの時、彼はいつも私の好みに合わせようとするので、申し訳なく思ったものだ。
また、幸翔の家は、インスタントや惣菜すらめったにないうちと違って、外食ばっかりの家だったらしい。
お酒も好きで、特に幸翔達が成人してからは、おかずが酒のつまみになるものばかり、ということも多々あったようだ。
そういう環境だったからか、私の作る料理は幸翔にとって、馴染みのあるものではなかったようだ。
ただでさえ私は、自分の料理の下手さに罪悪感を持っていた。
そこに、肉じゃがとかハンバーグではなくて、ちょっとお高めなチーズを食べたいとか、こないだ居酒屋で食べたアヒージョが食べたいとか、どこどこのレストランで食べたスープが食べたいとか言われてしまうと、もう本当、どうしたら良いかわからなくなってしまった。
あと、幸翔ががっつり揚げ物を食べたい気分の時に、私がその日作った夕飯が、あっさり胃に優しいものだったりすると、幸翔は私がせっかく作った夕飯を食べずに、宅配ピザを頼んだりすることもあった。
正直、幸翔が何を食べたい気分なのかなんて、本人が申告してくれなければわからない。でも、夕飯を作り始める前に、何が食べたいか聞いたところで、たいてい答えは「何でも良い」だ、あてにならない。
材料を買いに行く都合や、食費の予算の問題もある。
自身の料理の腕を上げることで、それらの問題も解決できないかと期待して、私は今まで母の手伝いに力を注いできたわけだが、食の好みが違うことは、価値観同様、結婚生活におけるかなり重要な問題な気もしてきたのだった。
読んでいただきありがとうございました。