生活習慣
「香耶、お風呂入ってー」
「はーい」
母に言われて、私はバスタオルとパジャマ一式を持って、お風呂に向かう。
昨日、母が実家から帰って来た。帰ってくるなり、休む暇も、荷物を片づける暇もなく、仕事に家事に大忙しだったらしい母を気の毒に思うけども、とりあえずこれで私の、小学生と主婦業の二足のわらじ生活は終了である。
ひとり、お湯につかりながら、私はぼんやり考えていた。
うちは7人家族だ。ひとり30分としても、全員がお風呂に入り終えるまでに、3時間半かかる。最後に入る人は、たいてい母なのだけれど、どうしたって遅くなってしまう。
だから子供の頃から自然と、ひとりが出たらすぐに次の人が入るとか、お風呂が沸いているのに理由もなくだらだらして入らないなんて、ガス代が無駄にかかってもったいないとか、そういう考えが身についていた。
まあ、「子供は21時就寝!」という家で育ったせいもあるだろうし、「まだお風呂に入らない」なんて言おうものなら、「食わせてやっている親の言うことを聞かない子供は出ていけ!」と怒鳴り散らす父の影響もあるだろうけど。
そんなわけで、結婚後幸翔が、自分がお風呂に入るタイミングで沸かしたくせに、いつまでもぐだぐだして入らず結局そのまま寝てしまい、翌朝追い焚きをして入るのを見て、この人は何て無駄なことをするんだろうと、とてつもなく驚いたものだった。
身体が温まったので、洗い場に出て頭を洗い、顔を洗い、身体を洗う。
そういえば、幸翔は歯を磨いたり顔を洗う時、よくお水出しっぱなしにしてたなあ、と思い出す。
結婚して最初の数ヶ月の頃は、幸翔に文句を言っていた私だが、早々に諦めることとなった。
子供の頃にそんなこと指摘されたこともない人が、大人になってから今更指摘されても、どうしてそれが問題なのか理解できないし、いちいち指摘されること、直さなくてはいけないことがものすごくストレスになるらしいということが、わかったからだ。
ただ納得いかないのが、幸翔は自分自身が、原因となる行動をしているくせに、光熱費が高いと文句を言うことよね、と思い出し怒りをしながら、お風呂を出る。
身体を拭き、パジャマを着る。ドライヤーで髪を乾かしながら、思い出すのはまたも幸翔のこと。
ガスや水だけじゃなくて、電気も無駄遣いしてたわ。夜中にトイレに行ったら、廊下も洗面所もトイレも全部電気をつけっぱなしにしたり、ドライヤーを使ったらコードをさしっぱなしにして放置したり、そんなことが日常茶飯事だった。
髪が乾いたので、両親、きょうだいと雑魚寝している和室に向かう。
今は9月、真夏ほどではないとは言え、まだまだ暑い日が続いているが、この部屋には窓が2か所もあるので、風の通りが良く、冷房なしでも余裕で寝られる。
布団に転がりながら、ああ、冷房や暖房をつけるかつけないかで、よく幸翔と揉めたなあ、と思い出す。
私は、暑ければ限界まで薄着して窓を開けて保冷剤を首に巻いて、寒ければたくさん着こんで湯たんぽ抱いて、限界まで冷房や暖房を使わないですむように頑張るタイプ。
幸翔は、すぐ冷房や暖房に頼りるタイプ。
電気代が高いと文句を言いながら、1日中冷房をつけっぱなしにしたりするので、イライラしたものだ。
それだけでも揉めやすいのに、どちらかと言うと私が暑がりで幸翔が寒がりなものだから、冷房や暖房をつけたにしても、お互いの適温が違うために、どちらかがどちらかに合わせて我慢しなくてはならなかった。
幸翔の場合、寒がりというより、ひどい貧血のせいっていうのが大きいと思うけどね。
やっぱり幸翔には、ちゃんとした食事をさせなくちゃいけないわ。もっと料理の腕を上達させないとね。
そんなことを思いながら、眠りについた。
読んでいただきありがとうございました。