美桜花ちゃんの転校
林間学校が終わり、夏休みも終わり、二学期が始まった。
美桜花ちゃんは、夏休み中に引っ越していった。
一度遊びに行って驚いたのだが、美桜花ちゃんの引越先のアパートは、幸翔の実家にわりと近いところだった。
歩いて10分くらいの距離だろうか。最寄り駅も同じだし、駅から幸翔の家に行く道の途中に美桜花ちゃんの家があるイメージだ。
美桜花ちゃんの家に遊びに行くなら、偶然を装って、幸翔に会うことになっても不自然じゃなさそうだ。
最初に美桜花ちゃんに話しかけようと思ったきっかけは、美桜花ちゃんが孤立していたことへの同情と、彼女の姿が私自身の過去と重なって他人事に思えなかったことだった。
結果的に美桜花ちゃんと気が合うことがわかったし、これからも仲良くしていきたいけれど、同情から友達になろうとしたなんて美桜花ちゃんにバレたら、美桜花ちゃんに嫌われてしまうかもしれない。黙っておこう。
林間学校の最後で、さっちゃんや朋ちゃんと少しだけ話すようになった美桜花ちゃんだけれど、お友達と言えるレベルまでには親しくはならなかったようだ。
新学期、担任から美桜花ちゃんが転校したことを伝えられたけれど、さっちゃんも朋ちゃんも、事前に知らされたりはしていないようだったし、特にショックも感じていないようだった。
クラスメイト達は皆、多少は驚いていたようだったが、あっさりとした反応で、突然の別れを寂しがったり、事前に本人から何の知らせもなかったことを悲しんだりする人もいなかった。
このようなクラスメイト達の反応を、美桜花ちゃんに見せずにすんでほっとする半面、悲しくもあった。
私の前の席、つまり一番前の席だった美桜花ちゃんが転校してしまったことで、私の席はひとつ前にずれることになった。
それに伴い、さっちゃんと朋ちゃんの席も、ひとつずつ前にずれることになって、元は朋ちゃんの席だった一番後ろの女子の席は、空席となることになった。
そのせいで、さっちゃんは湊くんの隣ではなくなり、朋ちゃんも真之介くんの隣ではなくなった。
美桜花ちゃんの転校より、好きな人と隣の席ではなくなったことの方が、さっちゃんにとっても朋ちゃんにとっても、重要なことのようだった。
美桜花ちゃんが転校してしまったことによって、さっちゃんも朋ちゃんも、今まで通り私に話しかけてくるようになった。
席替え以来、私はさっちゃん達より美桜花ちゃん優先の接し方をしてきたので、場合によってはさっちゃん達から縁切りされる可能性もあるかと思っていたのだが、どうやらそれは避けられたようだ。
「香耶っ、校庭行こっ」
「香耶ちゃん、急ごっ」
今日もさっちゃんと朋ちゃんが、休み時間にバスケに誘ってくる。
やり直し以前の当時の私だったら、喜んで参加したはずだ。
このバスケは、湊くんや真之介くんと一緒にやっていたから、当時真之介くんに片思いしていた私は、参加したがっただろう。
たとえ、自身が重度の運動音痴だったとしても。
でも、今の私は真之介くんに片思いなどしていないし、運動嫌いなので、参加する意味がない。
強いて言うなら、さっちゃんや朋ちゃんとの仲を保つためには、参加した方が良いけど。
美桜花ちゃんと仲良くなったことによって、さっちゃんや朋ちゃんと、私の趣味や考え方や性格が合わないことに気づいてしまった以上、無理に彼女達に合わせて仲良くしようという気持ちがなくなってしまった。
偶然話しかけた美桜花ちゃんの方が、よっぽど気が合う。美桜花ちゃんは転校してしまったけれど、これからも仲良くしたいと思うし。
それに、さっちゃんも朋ちゃんも、来年以降はクラスが一緒になることもないし、やり直し前の時、クラスが別の時に彼女達のところに遊びに行ったら、邪険にされたことがあるのを思い出したから、なおさら、無理に合わせて仲良くする気がなくなってしまった。
それに元々、さっちゃん達とクラスが別れた時に備えて、クラス中の子と仲良くなるつもりでいたわけだし。
友達って、こんなに打算的に作るものじゃないと思うけれど、人生2回目なこともあって、あまり純粋な気持ちになれない。いや、2回目とか関係ない。無理に人に合わせてでも孤立を避けたいという気持ちは、当時からあった。無理して人に合わせて、それでも、友人関係には苦労し続けた学校生活ではあったけど。単に私の性格がねじ曲がっているのかもしれない。
やり直してまでぼっちな学生生活は嫌だ。無理に人に合わせてまで友人関係を保つのも嫌だ。
でも私という人間は、素のままで、気が合う友達がたくさんできるタイプではないのも確かなのだ。少なくともやり直し前は、そうだった。
唯一、幸翔が、私が自分に無理をしないで一緒にいられる存在だと思っていたのに、いざ結婚してみたら、そうじゃなかったみたいだし。
ああもしかして、私は、小学校から高校までの友達で、社会人になってからも連絡をとっていた子達なんてひとりもいないから、大学生時代からつき合いのある幸翔に、余計に執着してしまっているのだろうか。
そう考えると、ちょっと自分が怖い。
読んでいただきありがとうございました。




