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目が覚めたら小学生

初投稿です。よろしくお願いします。

 28歳、専業主婦の私が、ある日目が覚めたら小学5年生10歳の頃にタイムスリップしていました。うん、自分で言ってて、意味が分かりません。


 私の名前は、武田香耶(かや)

 2017年1月、学生時代からおよそ7年付き合った彼、武田幸翔(ゆきと)と結婚した。

 

 当時私は、リフォーム会社で事務として働いていた。

 結婚後も仕事はそのまま続けていたが、同年7月に妊娠が発覚。まもなくつわりがひどくなり、とても働けずに休職、有給を使い果たした9月に退職を申し出た。

 しかし、退職の手続きを終える数日前に、流産。


 すぐに会社に報告すれば、退職を取り消し、また何事もなかったかのように働くこともできたかもしれない。


 でも、「初期流産はよくあることだから」と医者に言われたところで、家族に「若いからまたすぐ授かるよ」と励まされたところで、悲しみは癒えず、「早くまた妊娠して子供がほしい」という思いで気が狂いそうで、とても働けそうになく、そのまま退職。


「回復後、3回生理を見送ったら、また妊娠して良いですよ」という医者の言葉だけが唯一の希望だった私は、じりじりとその日を待っていた。


 しかし、待ちに待った3回目の生理が終わろうという頃、幸翔(ゆきと)は言った。

「ごめん。俺、子供ほしくない。この間授かった時は、しょうがないから腹くくるしかないやと思ったけど、ダメになっちゃったし。俺達の子供は、あの子だけで良いかなって」

それからこうも言った。

「そもそも俺、自分の遺伝子を残したくないし。ちゃんとした親になれるか、自信ないし。ていうか、香耶(かや)がそんなに子供がほしい理由って、何?」


 ショックだった。


 結婚当初の私は、元々子供好きだし、いつかはほしいと思ってはいたけど、こればっかりは授かりものだし、自然に任せておけば良いよね、と特に焦ってもいなかった。


 ところが流産してから、妊娠前とは比べ物にならないくらい、子供がほしくてほしくてたまらなくなっていた。遺伝子だかホルモンだか本能だか知らないが、影響力すごい。


 私はこんなにも子供がほしいのに、この人は望んでいない。夫婦なのに、全く正反対のことを望んでいる。


 子供がほしくないなら、なぜ、そもそも妊娠前にそう言ってくれなかったの?

 私、つきあったばかりの頃から、「将来は子供がほしい」って、ずっと言ってたよね?


 流産後に私が「早くまた子供がほしい。でも仕事復帰後すぐにまた妊娠したら、またすぐつわりで会社を休んだりして、迷惑かける。だから退職する。子供が少し大きくなったら、また働く」って言った時に、子供を望んでいないことを話してくれなかったのはなぜ?


 というか、「自分の遺伝子を残したくない」なんて、そんな悲しいこと考えてたの?


 私だって、「親になれる自信」なんてものはないけど。でも、最初から「自分はきちんとした親になれる」と子供が生まれる前から自信満々な人なんているの? そうじゃなきゃ、ダメなの?


 子供がほしい理由なんて、「子供が好き」で「愛する人との子供がほしい」の他に、必要?


 思い返せば、妊娠発覚時、幸翔(ゆきと)は喜んでいるというよりは、とまどっているようにも見えた。

 驚きの方が大きいから反応が薄いのか、男の人は自分の身体に変化があるわけじゃないから実感がわかないのかと思って、気にしてなかったけど、そもそも喜んでなんかいなかったんだね。


 泣いた。泣いて、泣いて、泣いて、泣いた。


 自分は子供を望んでいるのに、幸翔(ゆきと)は望んでいないことが悲しいのか。自分が自信を持って親になれると言えないのか悲しいのか。よくわからなかった。


 幸翔(ゆきと)は望んでいないけれども、自分はそれを説得してまで子供がほしいのだろうか。


 そもそも、お腹の赤ちゃんを流産してしまってから、まだ3ヶ月ちょっとしか経っていないのに、次の赤ちゃんを望んでしまう私は、亡くした赤ちゃんに対して冷たいのではないだろうか。


 幸翔(ゆきと)に子供いらない宣言をされたその日から、もうすぐ6ヶ月目になる。

 何度か話し合いはしたものの、依然として幸翔(ゆきと)は子供を望まないまま、私は望んだままで、話し合いはいつも平行線だ。

 

 妊娠してもいなければ子供もいない。夫も仕事が忙しく、毎日帰りが遅い。

 それならば、短時間のパートでも良いから、少しは働いてもと思うのだが、働き出したら幸翔(ゆきと)に子供を諦めたのだと安心させてしまわないかという不安と、急に幸翔(ゆきと)の気が変わって、子供を望むようになるかもしれないという期待から、踏ん切りがつかずにいた。

 本当に子供を望むなら、お金はいくらあったって困らないんだから、働けよと自分でも思うけども。


 そんなもやもやした日々を送っていたある日。

 目が覚めたら、幸翔(ゆきと)と暮らしていたマンションのベッドではなく、実家の客間の畳の上に布団で寝ていたのだった。


 目を覚まして最初の違和感は、昨日までと比べて極端に目が悪くなっていたこと。


 私は子供の頃、ひどい近眼で、小学2年生の頃から眼鏡をかけていた。しかし大学生の頃、バイト代を貯めて視力回復手術を受け、矯正なしで日常生活を送れる程度に、視力は回復している。


 それなのに目が覚めた時、枕元にあるはずのものが黒いボンヤリとした球体にしか見えず、しかもそれが何年も前にさよならしたはずの、小学生時代に使っていた眼鏡と眼鏡たてだと気づいて、私はたいそう驚いたのだった。


 ひとまず眼鏡をかけてわかったのは、自分も家族も若返っているということだ。


 私に関しては、目が悪いことに加え、肌はアラサーとは思えないほどぴちぴちしているし、元々大して大きくない胸はさらに減っているし、腕と脚が何というか、棒っきれみたいというか、成長期! という感じなのだ。


 同じ部屋に寝ている家族の顔を覗き込むと、父は最近薄くなっていていたはずの髪の毛が黒くふさふさだし、母も髪型が違うし、弟や妹にいたってはどう見ても小学生だった。


 私は家族を起こさないよう、そ~っと客間を出てリビングに向かった。カレンダーを確認すると、2000年4月。日めくりじゃないから、日にちはわからない。


 私は2018年5月で28歳だから、18年と1ヶ月前。私の誕生日は6月だから、10歳か。時刻は朝4時。


 なんでかわからないけど、どうやら私は、28歳の記憶を持ったまま、小学5年生の頃にタイムスリップしてしまったらしい……。

読んでいただき、ありがとうございました。

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