決着
宿角蓮華を誘拐した者達を探し出すことは造作もなかった。彼らは『自分達は神の加護を受けた正しき者だ。正義は必ず報われる』と信じて疑わず、その犯行は非常に杜撰なものだった。だから、戸野上威や斉藤敬三らにとっては、かくれんぼをしている子供を探し出すよりも容易だったかもしれない。
戸野上らがそれぞれ自らのネットワークを使って<あじと>を特定し、斉藤に情報を提供。強行犯係が動き、複数犯による拉致監禁、かつ何らかの武装を行っている可能性があるということで機動隊までもが動員された。
その対応は迅速かつ徹底したもので、誘拐犯らの<あじと>を完全に包囲し、まさに被害者に対して苛烈な暴行が行われている現場を確認。一刻の猶予もない事態に投降を呼びかけることすらなく強行突入。その場にいた実行犯五人を瞬く間に制圧、宿角蓮華の救出に成功することになった。
しかし、救出された時の彼女の状態は正視に堪えないものであったという。
髪の毛は無造作に切り取られてまばらにしか残っておらず、顔は赤黒く腫れ上がり目を開くことさえままならない有様で、衣服を破られほぼ下着のみになった体には、殴られたり蹴られたりしたことによる内出血だけでなく鋏やカッターナイフで切り付けられた痕が無数にあり、特に腹部の傷は腸を傷付けている可能性もあり一刻の猶予もない状態だった。
すぐさま救急搬送され、腹部の傷の手術を受け、さらに集中治療室にて一週間に及ぶ救命処置により、蓮華は辛うじて一命をとりとめることとなった。
その後、蓮華を拉致監禁、暴行を加えた信者を擁した宗教団体は組織犯罪処罰法の適用を受け、今回の事件の発端となった強制捜査により事実上の活動停止状態にあったものがさらに徹底した捜査・追及の結果ついに解散へと追い込まれ、形式上も消滅することとなった。
この際、残っていた信者が養育していた子供らも保護され、<もえぎ園>ではないが<もえぎ園>と協力関係にあった保護施設へと引き取られた。
そして宿角蓮華自身は、この事件によって受けた打撲、裂傷、骨折、脱臼等々の回復までに半年を要したのだった。歯も六本が折れ、インプラントによって復元されている。子供に対しては本来、インプラント手術は行われないとされているが、蓮華の場合は肉体的な成長は既に止まっており、あくまで体が小さいだけの成人として手術を受けた。
それにより、半年後に<もえぎ園>に復帰した時には、一見しただけならそれ以前と変わらない様子で戻れたのだった。ただし、普段は服で隠れる部分には完全には消えない傷痕が残り、特に腹部の裂傷は、僅かとはいえ腸を傷付けるほどに大きく深いもので、かつ一目で分かるほどの痕が残ってしまったのである。
もっとも、当の蓮華は気にも留めていなかったようだが。
「ま、どうせ、見られて困る相手もいないしね」
と笑ったそうだ。




