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反省するまで

殴ることで相手が反省するようになるとか思っている人間は多いが、それは大きな間違いである。殴られて怯えて反省するのは、そもそもそういうことに対して慣れていない大人しい性格の者が殆どだろう。普通に言えば分かる程度の。


しかし、殴られることに慣れている者、殴れば殴るほどに恨みを募らせ感情を昂らせる者というのは決して少なくないのだ。


では、そういう者をどうやって殴ることで反省させる? 反省するまで、泣き言を言い出すまで殴るのか? そうやって引き出した反省の言葉や泣き言が本心からのものかどうか、どうやって確かめると言うのか?


宿角蓮華(すくすみれんげ)は、家庭ではもちろん大切にされてきたが、生来、物事をはっきりと言う癖があったからか、何かと男子などに殴られることがあった。その時に男子が決まって口にするのが、


『女のクセに生意気だ!』


という言葉だった。それを言われると蓮華は一層、意固地になった。


「お前らみたいなヒキョウものよりはマシよ!!」


そう口答えするとさらに殴られた。


では、殴られないようにするにはどうすればいいだろう? 口をつぐみ、相手の言いなりになっているふりをしていれば、『女のクセに生意気だ!』と言われるような真似をしなければ殴られなかったのだろうか?。腹の中でどれほど舌を出し、蔑み見下していても。そしていつしか苛烈な報復を目論んでいても。


相手が<服従の仮面>を被り、殴られるような理由を作らなければ、殴ることができない。その裏で何を考えていようとも。


そして、殴られることを前提で歯向かう者に対しても、殴るという行為は無力だ。相手を変えることはできない。この時の宿角蓮華がまさにそれだった。


どれほど殴られても蹴られても傷付けられても、蓮華は声を上げることさえなかった。彼女より遥かに大きな体の男子に殴られても決して折れない頑迷さが、蓮華の最大の特徴だった。それをさらに高め自らを律する為に狂気染みたレベルの自己暗示を習得してさえいたのである。


いくら痛めつけても悲鳴すら上げない蓮華に、男達の怒りも既に狂気へと変貌していた。


『こんな子供は生かしておいてはいけない。こいつは必ず社会に仇なす害悪となる!』


自分達の<正義の鉄槌>でもまるで悔い改めようとしないその姿は、男達の目には<この世から排除しなければならないもの>と見えたのだろう。


蓮華を見下ろしながらカッターナイフを振り上げた男の表情は、悪鬼もかくやという程に歪んでいた。それでもその場にいた誰も、男の行為を異常だとは思っていなかったのだった。



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