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挑発

「初めまして、宿角健侍(すくすみけんじ)くん。私はあなたの遠い親戚の宿角蓮華(すくすみれんげ)です」


保護した健侍を前に、蓮華はそう微笑みかけた。なのに彼は、「ふん!」と鼻を鳴らして視線を逸らしてしまう。体も態度も大きくてふてぶてしい感じの<悪ガキ>だった。


だが、それでいい。そうやって見た目にも分かりやすい<悪ガキ>の方が、実は扱いやすかった。何を考えているか顔に出るからだ。それよりも、一見大人しいタイプの方が心の動きを捉えにくくて難しいのだ。不穏なものを抱え、それを膨らませねじくれさせていても、他人には見えないから対処が遅れがちになるになることが少なくない。


それに比べれば、態度に出ているぐらいの方が分かりやすくていい。そして正直だ。自分の気持ちに対しても。嬉しい時には喜ぶし、嫌だと感じればそういう態度をとる。


「健侍くん。<もえぎ園>はあなたを歓迎します。ここはあなたが生きていていい場所です。あなたが生まれてきてくれたことを喜んでくれる場所です。苦しいことも辛いことも、これからは私達があなたと一緒に支えます」


それは、蓮華の本心だった。ようやく一人、宿角健剛(すくすみけんごう)の呪いの輪から拾い上げることができた。その呪いそのものを解くのは決して容易でないことも分かっているが、少なくともこうして迎えることができたのだから、後は自分達次第だ。


『宿角健剛……あなたを追い詰めて放逐した高祖父の尻拭いは、私達がするわ。あなたの呪いが勝つか、私達の贖罪が勝つか、勝負よ…!』


実際には勝負事ではないのだが、蓮華にとってはそれくらいの気持ちで臨むことであるということだ。


健侍は、不貞腐れたように部屋の隅に陣取って、他の園児達を挑発するように睨み付けていた。それに怯えて不安そうな顔をする園児もいたが、逆に睨み返す者もいた。そういうのは大抵、ここに保護された時には彼と同じような感じの子供だった。しかしここで暮らすうちに精神的に落ち着いて、容易く挑発に乗るようなことも無くなったのだが。


と思っていたらそのうちの一人が、


「なんだ、お前…? やんのか…?」


などと言いつつ健侍に近付いていった。健侍と負けず劣らず体の大きな男児だった。ふてぶてしい顔つきもよく似ている。しかし、その様子に気付いた職員の一人が何も言わず、ただ二人の間に入った。


「ちっ…!」


そうして遮られて、近付いて行った方の園児が興を削がれたように踵を返す。もしここでその職員に食って掛かってもまったく無駄なことを知っているからだ。怒らず、怒鳴らず、たとえ殴り掛かってもただ真っ直ぐに見詰めてくる。


それがこの園での対処法であった。



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