宿角健侍
「先に長男を保護する方がむしろ早いかもしれないわね…」
戸野上からの報告を受けた宿角蓮華は、途中経過の報告書を読みながらそう呟いた。女性のところを渡り歩いており、その間に何人かの女性が妊娠、出産もしていたようだ。途中で人工妊娠中絶を行った女性もいた。それらが宿角健雅の子である可能性もある。
中絶を行った事例はともかくとして、実際に出産に至ったものは結局、未婚の母として子供を育てることになったようだ。だから蓮華は、そんな母子に接触を図り、困った場合には相談に乗ると持ち掛けることにした。既に所在も分かっているところには代理人を派遣し、話をする。
もしかしたらまだ把握できていない事例もあるかもしれないが、とにかく判明したものについては先祖の尻拭いとして対処しなければと考えた。
特に、宿角健侍の場合は、戸籍上は宿角健雅の実子として記録されているので確実である。しかも高校の時の後輩に押し付けてなど、言語道断だ。
どうやらこの後輩というのもあまり褒められた人物ではなさそうなので、素行調査を行い保護者としての適性を欠いているとしてこちらで保護するという形にもっていくことにしよう。
そしてさっそく、蓮華は健侍の現在の保護者である人物の素行調査を戸野上に依頼した。
だがその矢先に、健侍が同級生の児童に対して、肋骨にひびを入らせた上、ハサミで切り付けて額を三針縫うという重傷を負わせたという事件が発生した。
宿角健剛の呪いがいまだに尾を引いている何よりの証拠であった。しかも、それだけのことをしたのにも拘らず、健侍の現在の保護者は、彼が怪我をさせた筈の相手側に対して謝罪を要求しているという。どこまで恥知らずなのか。
まあもっともそれは、敢えて強気に出て相手を怯ませ、その上で譲歩して自分達の有利な条件で折り合いをつけさせるという、いかにも小悪党が考えそうな悪知恵だったのだが。
しかも相手側もそれに怯まず、弁護士を立てた上に、知人を通して偶然にも戸野上のところに、健侍の保護者の素行調査を依頼してきたという。
これは放っておくと、泥沼の法廷闘争になるかもしれない。司法で白黒をつけるのは当然良いことなのだが、その間、健侍の扱いが宙に浮いてしまってはそれも困る。
「仕方ない。ここは少し強引でも先にこちらの方から圧力をかけて健侍を保護するわ。先方にはやんわりと、こっちで対処するから手を引いてほしいと伝えて」
相手の児童は保護者と共に引っ越し、学校も転校することになったそうだ。健侍の保護者側が引き下がるならもうそれ以上は争わないとのことであった。




