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親権

宿角健雅(すくすみけんが)が次男の頭を拳で殴り頭蓋骨骨折の重傷を負わせたことで所在が掴めたが、実はその地域には<もえぎ園>と協力関係にある施設がなく、しかも既存の保護施設と自治体との結びつきが強い為、進出に向けての根回しを始めたばかりのところだった。それ故、今回被害に遭った次男はそちらの保護施設で保護されてしまい、手出しができない状態だった。


宿角蓮華(すくすみれんげ)は、宿角の名を出して遠縁とは言え親戚関係にあるということで自分の方で面倒を見ると打診はしているのだが、被害児童の高祖父の弟の曾孫ともなれば、いくら名字が同じでもほぼほぼ赤の他人に等しい存在だ。ましてや交流は数十年間まったくない。その上、お互い、今回初めて名前と顔どころかその<存在>を知ったというレベルである。子供にまつわる事件に対していろいろと厳しくなっている今の状況では、さすがのお役所も容易に首を縦には振らなかった。


蓮華も保護施設を運営していて実績もあることから身元は確かでも、赤の他人に等しい児童を無条件で引き取るという申し出は逆に不信感を抱かせてしまったようだ。安易に引き渡してしまって何か問題が起こった時に責任を取らされるのを恐れたのだろう。また、お役所特有の縄張り意識も影響したのかもしれない。


「……分かっちゃいたけど、面倒臭いことになったわね……」


結局、色々と根回しをした上で時間をかけて交渉するしかないようだった。


「まあ、向こうでちゃんと保護してくれるのならそれでいいけど……」


ようやく、幼いうちにこちらに取り込んで悪因縁を絶つ為の手を打てるかと思ったのだが、そう上手くはいかないようだ。


しかもこちらでなら親権停止の為の裁判を起こすくらいのことはする覚悟もあるものの、普通はよほどのことがない限り日本ではそこまでのことはしない。今なお、『子供は親の下で養育されるのが幸せ』という考えが根強く、それに当てはまらない事例も決して少なくないのだということを認めたがらない傾向にあるとも言えた。


特に、今回のように初犯となれば執行猶予付きの判決が出て、結局は宿角健雅の下に次男を戻すことになる場合も十分に考えられる。それでは意味がないのだ。


親元に戻されてから裁判を起こしても、親という立場が圧倒的に強く、親権停止が認められる可能性は限りなく低い。健雅がいかに親として不適格かということの証拠を集めなければいけないだろう。それをするとしても果たしてどれだけかかるのか……


だが蓮華は電話を取った。


戸野上(とのがみ)探偵事務所に、健雅の素行調査をし、犯罪行為の証拠となるものをできる限り集めるようにと依頼する為だ。


これまでは消息を探ることを頼んできたが、警察に身柄を止められ所在が明らかな今のうちにできることはしたいと思ったのである。



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